あなたにも、書籍やテキストなどで、初めは難しいと思っていたことが、時間が経って見直すとなぜか易しく思えたという経験があるはずです。この種明かしは、「脳が勝手に学習を進めてくれた」なのです。このようなことが起こるのは、脳では多数のCPU(ニューロン)が複雑につながり合い、協力し合って作業しているため、学習を終えた後も、情報のやり取りがしばらくの間続くからです。つまり、情報処理の完了までに時間がかかるからなのです(※)

(※)よく、3カ月間も集中して勉強したのにTOEICのスコアが上がらないといった話を聞きますが、これも同じ理由で、個人差がありますが、学習が成果として表に現れるまでには、通常2~4カ月程度はかかります。この点が理解できていないと、無闇に焦ることになり、悪循環に陥ります。

 記憶についても、「忘れまい」と頑張るのは逆効果になります。なぜなら、それはせっかく受け取った情報を整理し、定着させようとしている脳の邪魔をすることになるからです。脳を信頼し、「忘れるものは忘れるに任せる」というようにすると、かえって記憶が定着しやすくなります。

 普段、私たちは追われるように勉強することが多く、脳にもプレッシャーをかけがちですが、少し“間”を置いて、ゆるやかな目で見てやるようにすると、脳は意外な潜在力を発揮します。これは少し嬉しい体験で、「もう少しやってみるか…」という動機にもつながります。

 ここで気になる点は、復習のタイミングとして「適切な時間」がいつかという事ですが、これは脳と“相談して”決めます。相談というとややこしそうですが、ようは「自然にやる気が起こるかどうか」で判断すれば良いのです。

 よく、記憶は●●日後に失われていくので、●●日ごとに復習と行うと良いといったことが言われますが、事はそう単純ではありません。脳が情報を扱う仕組みは極めて複雑だからです(※)

(※)脳が言葉を処理する能力に関しては、以前は特定の部位が働くと考えられていましたが、現在では多数の部位が複雑に関わっている事が分かっています。言葉が人間の思考や感情に深く関わっている事を考えると、これは当然だといえるでしょう。私が、英語を学習する際に、母語である日本語を有効に活用するべきだと考えるのはこのためで、リッスントークなど、英語関連の教材を作る際には脳の働き方に細心の注意を払います。

 ではどのように復習すれば良いかというと、例えば、一度学習したテキストが7冊あるとすると、それらをパラパラとめくったり、音声を聞いてみたりして、「これならもう一度やってもいいかな…」とか「お、これはもう一度やってみたい」と感じるものをそのタイミングで復習すれば良いのです。なぜなら、このように思えるということは、脳内で以前に学習した内容が整理し終わっているという事だからです(※)

(※)やる気の起こるのが、テキストの第3章だけという場合もありますが、そのときにはそこだけをやるようにします。“脳の気分”に逆らうのはご法度です。

 ちなみに、いつまで経っても全くやる気の出ないテキストというものが必ずあります。そのような場合にはどうすれば良いのでしょうか――迷わず捨てて下さい。少なくともいくらかは学習したわけですから、完全な無駄にはなりません。脳が好まないものを無理やり押し付けると、疲弊するだけで、効果は上がりません。やる気の出ないテキストはどんどんと捨て、新しいものを試してみて下さい。どんな発見があるか分かりませんし、もし相性の良いものに出会うことができると、それは“宝”を発見したようなもので、色々な意味で必ず大きなプラスになります。