日本語を活用する

 3つ目は「英語を英語で」を妄信せず、日本語をうまく活用することです。これは、このコラムのテーマでもあるのですが、私たちの母語である日本語は絶対的な力を持っています。国内の語学学校などで、「English only! No Japanese!」などと繰り返し注意されるのも、日本語の思考回路が働いていると英語を入れる隙がなくなるからです。

 しかし、この邪魔なパワーも使いようです。ここにある英文があったとして、意味もよく分からないのに無理やり音読したり、問題を解こうとしてもうまくはいきません。ところが、和訳をさっと見て取り組むようにすると、脳が活性化するため、集中した状態で英語をつかみ、深くトレーニングすることができるようになります。

 ある程度英語が出来る人なら、わざわざ全文の和訳がなくても、タイトルが日本語であるだけで、集中力がまったく違ってくるものです。これはある意味で脳をだますということですが、文法などでも日本語をうまく活用すると、あれこれと事細かに説明しなくてもうまく脳をだまし、無駄な苦労なしに英語を身に付けていくことができます。

 この点については、今、不思議なことが起こっています、それは、昨今は「英語を英語で」という声がどんどんと大きくなっているのですが、肝心要の教材類が実際のところどうなっているかというと、じつは(まるで反比例するかのように)日本語をうまく活用するケースがとても多くなってきているのです。たとえば、高校用の教材類にはリーディング教材でさえ、チャンク訳(意味の塊ごとの訳)に加えて音声までもが付いている例が標準となってきています。これは大変心強いことで、民間企業の関係者たちの懸命の研究と努力がうかがえます。

 私も、30年ほど前に、日本語を100%活用するというコンセプトの単語集を世に問うてベストセラーとなり、近年は同じコンセプトで、2種類の設計の異なる英会話教材を発表し、一方がベストセラーとなり(※)、もう一方も底堅い評価を得ています。

(※)途中で名称を「スピークエッセンス」に変えています。

 しかし、いよいよ時代そのものが日本語の積極的な活用へと流れ始めており、自分に残された仕事は、ほとんど文法用語を使わないシンプルな新しいタイプのグラマー(とその訓練システム)の普及に絞られてきたように感じています。ただ、この先、本格的に日本語の活用とICT(※)が広まると、文法解説そのものが不要になるとも考えており、実際、私の頭の中ではそのシステムが出来上がりつつあります。

(※)Information and Communication Technology(情報・通信に関する技術)の略。

 世の中の進歩の最先端というのは、いかなる分野においても革新的・革命的であり、何年培ったノウハウであろうが、理論であろうが、しがみついていると必ず後れを取ることになります。

 ただ、ICTを使って、「これが自動詞で…」とか「瞬間動詞というものがあって… 」などと解説している動画を見ていると、情報通信技術の発達と、英語の教え方の発達とはまた別の物であるとも感じます。最先端の情報通信技術を使って旧態依然とした文法を教えていたのでは、英文法解説がなくなるどころか、ますます深く広く根をはる可能性もあります。

 一方で、エマージェント・グラマー(創発文法)などの、AI(人工知能)とも深くかかわる最先端の文法概念に基づく学び方も、いったんウェブで紹介され始めると、一気にその流れが強まるという希望もあります。いずれこのような時代が来ると予測し、理論と実践を通じて準備をしてきましたが、今英語教育・英語学習は本当にパラダイムシフトの真っただ中にあると思います。