これには、理論的な根拠がありました。それが、当時まだ出始めで、PDPと言われていた脳の情報処理の考え方でした。PDPによると、文法はルールとして理解するべきものではなく、創発するもの、つまり自然なプロセスで体得されるものなのです(※)

(※)現在良く耳にする「ディープラーニング」という言葉は、じつは多層からなるPDPのシステムのことです。今では第二言語習得学の分野でもコネクショニズムとして注目を集めています。

 いずれにせよ、①「映画」という話題に絞る、②英文などをすべて短くシンプルにする、③文法を一切学ばない――という方針で、「ペラペラに話せる」ようになるか試してみようと考えたのです。

 あと一点、工夫したのは、「マイクロ会話」という考え方でした。会話というと、普通はA→B→A→B→A→Bといったように長く続くものが多いのですが、単純化していくと最終的には、Aさんが何かを言って、Bさんがそれに答えるという「一対の会話」がたくさん集まったものだと考えることができます。つまり、「マイクロな会話」です。

 つながっている会話は、覚えてもその通りの順序では出て来ませんが、「マイクロ会話」はレゴのブロックのように自在に組み合わせることができます。これが、自由な会話の流れ(つまり流暢さ)につながると考えたのです。

バイリンガルを探せ!

 しかし、さて始めようとしたところで、いきなり問題に直面しました。それは、英語については、私も、そして周囲の人も、すでに文法を知っていて、会話も問題なく出来たということです。これでは、きちんとした実験ができません。

 そこで、「未知の言語」に挑戦することにしました(※)

(※)まったくもって無茶苦茶な結論ですが、論理的に考えるとこうなってしまったのです。

 さあ、それからが大変。実は、この実験教材は、文法をゼロにする方法として、このコラムのテーマでもある、「日本語を活用する」つもりでいたのです。ですから、外国語と日本語を話せるバイリンガルの人がどうしても必要でした。

 しかし、「文法を使わないのだから英語以外なら何語でもいいはずだ」と考え、方々に当たったところ、台湾の人でほぼパーフェクトな日本語を話せる方が見つかりました。そこで、その方と音声収録のアポを取っておき、大急ぎで原稿を作成しました。教材の基本的な設計については、私の中ですでに具体的なイメージがありましたので、大変な作業だったものの、なんとか原稿を期日までに仕上げ、音声の収録を行いました。

トレーニング開始!

 こうして、ようやく「映画」について、中国語バージョンの教材ができました。そこで、私は早速アシスタントの方と練習を始めました。自分に試してうまく行くかどうか確かめようと考えたのです。

 方法は単純で、少し工夫を加えた音声(※)を、日本語→中国語の順序で丁寧に聞き込み、つぶやくようにリピートするというものでした。音声の確認のためときどき、テキストもチェックしました。ある程度慣れると、日→中の通訳練習を行いました。これを続けているうちに、だんだんと会話がつながるようになっていきました。

(※)記憶に残りやすいように、わざとポーズをたくさん入れたスロー音声を用意しました。これを使ったリスニングを「超スローリスニング」と呼んでいます。