大学入試の英語試験を民間に委託することで、4技能(Reading/Writing/Listening/Speaking)を判定することとするーーこの発表を耳にしたとき、英語教育関係者は相当なインパクトを受けたのではないかと思います。

 スピーキング能力を測るという発想自体は優れたものです。スピーキングを意識すると、どうしても音読の訓練を丁寧にしっかりと行うことになりますし、実際に話すことも必要になりますので、話す力が伸びるだけでなく、他の能力にも大きなプラスになると考えられるからです。

そんなことが可能なのか?

 ただ、これはあくまでも私の感想ですが、教員が受けたインパクトというのは、「素晴らしい。しかし、いったいどう教えれば良いのだろう?」ではなく、「そもそもそんなことが可能なのか?」というものであったのではないかと思います。

 それというのも、スピーキング能力を測定することはとても難しいからです。これは英語教員の間ではよく知られた点ですし、第2言語習得やテスト理論の書籍にもはっきりと書かれています。スピーキング能力を判定するには、まず複数の試験官が必要です。さらにその試験官たちが適切な訓練をしっかりと受けている必要があります。これは、言うのは簡単ですが実際に行うのは大変です。さらに、そこまでやって、ようやく「ある程度の精度」で判定できるというのが実情で、どうしても揺らぎが出てしまいます。

 このように言うと、「いや、すでに民間でスピーキングテストは行われているのだから大きな問題はないのでは?」と思う人もいるかもしれません。しかし、ここにはごく単純に2つの問題があります。1つ目は、今お話した精度の問題、2つ目は民間試験といっても多種多様でスピーキング・テストの内容も実施方法も異なるという点です。

 まず精度についてですが、民家のテストがこれまで大きな問題にならなかったのは、それぞれの試験が、それぞれの内部基準で判定してきたからです。そのため、精度に多少の揺れがあっても、それを踏まえたうえで、たとえば「Bレベル」とかいった独自の判定を出すことができたわけです。

 しかし、人生を左右しかねない「大学入試」の判定にとなると、話は全く違ってきます。「多少の揺れがあります」では済みません。それに加えて、テストの内容や実施方法が異なると、話はさらに難しくなります。この点については、スピーキング問題を見るまでもなくリーディング問題を見れば分かります。たとえば、同じ会社が作っているTOEICとTOEFLというテストでは内容・難度が全く異なります。TOEICが社会人向けのテストである一方で、TOEFLはアカデミックな能力を問うテストになっており、単純な比較や関連づけはできません(※)

(※)蛇足ですが、TOEICが大学入試の判定に適切であると判断されたことには驚いた人が多いと思います。高校生がmarketing strategy(マーケティングの戦略)とかcompetitive prices(競争力のある価格)などという言葉を必死で勉強している様を想像してみて下さい。

 また、これら2つとは全く違うIELTSという英国圏でメジャーなテストは、また一味違う洗練された問題を出題してきます。

 いずれにせよ、それぞれの試験はそれぞれ明確な目標を持って作られており、色々な意味で異なるわけで、それが資格試験として成り立つのは、他の試験と比較せず、それぞれの独自の評価基準で判定を出しているからです。