英語の学習法に関する本やサイトを見ていると、「英語脳」という言葉をよく耳にします。「英語脳」と聞くと、まるでほかにも脳があるようにも聞こえますが、もちろん、これは私たちの脳の中に、英語だけを処理する部分があるかどうかということです。

 ごく普通に考えて、日本語を扱う場所と、英語を扱う場所が全く同じはずはありませんので、英語を扱うところを「英語脳」と考えても構わないでしょう。問題は、「日本語脳」と「英語脳」の関係です。ここはとても大切な点で、よく理解しておかないといくら勉強しても効果が出ないという事に成りかねません。

 まず、こう考えて見て下さい。私たちが、例えば経済の話題について誰かと熱心に話していたとします。そのとき、何の前触れもなく、相手が全く関係の無い話、例えば医療関係の話題について尋ねてきたら、どうなるでしょうか。一瞬、言葉に詰まり、「それって何の話?」と聞き返すことになりますね。

 なぜそうなるのでしょうか。それは、頭の中で、言わば「経済脳」が働いているときに、急に「医療脳」を使うことを要求されるためです。そのために、スイッチの切り替えに時間がかかるのです。

 しかし、話題が変わると言っても、日本語で話している限りは、少し経てば別の話題に「脳」を切り替えることができます。ところが、これを「言語」のレベルで考えるとどうなるでしょうか。つまり、「日本語脳」から「英語脳」へ切り替えるときにはどうなるのでしょうか。

 これは容易に想像がつきますね。大変なことになるに決まっています。なぜなら、私たちは普段、あらゆる事柄について日本語で考えているからです。ですから、そこからのスイッチングの難しさというのは、単に「話題」を変えるだけの場合とは比較になりません。

 私なども、このスイッチングには結構苦労します。海外に1週間ほどいると、ごく自然に「英語脳」が起動し始め、ベストコンディションになるのですが、国内にいるときには、ウォーミングアップをしてアイドリング状態にしておかないとうまく口が回らないことがあります(※)

(※)日本語でも調子の良い時と悪い時があるものですが、英語ではそれが何倍にも増幅されます。この点に関しては、やはり長期間の海外在住経験がある人は圧倒的に有利です。

 さて、ここからが肝心なのですが、いくら「英語脳」といっても、今まさにスピーキング力を伸ばしたいと考えている、平均的な人のケースを考えた場合、そもそも英語の情報自体がほとんど頭の中にありません。

 「いや、無いということはないはずだ。私はTOEICで800点を取っている」――そのように思う人もいるかも知れません。

 確かに、リーディングやリスニング、ライティングについては「蓄積」がかなり効きます。つまり、訓練をして、ある程度のレベルに達していれば、たとえ普段の生活の中で英語を使っていなくても、スイッチングがかなり容易にできます。リーディングやリスニングは「受け取る力」ですし、ライティングは考える時間、練り直す時間があるからです。

 ところがスピーキングの場合は、そうはいきません。リアルタイムの応答が求められるからです。このような瞬時の反応ができるためには、言いたいと思ったときに、それがほぼ無意識に英語として口にできないといけません。つまり、「深い蓄積」が必要なのです。これが一般に「英語脳」と言われているものです。

 スピーキングには「深い蓄積」が不可欠です。この点をよく理解していないと、長い勉強の果てに大きく落胆することになります。テストで高得点を取れてもほとんど話せないということがごく普通に起こるからです。

 もちろん逆のケースもあって、うまく「深い蓄積」を行っている人は、たとえテストで高得点を取れなくてもかなりのレベルまで英語が話せるようになります。例を挙げますと、ある機械の輸出会社が社員の英会話力の向上に力を注いでいたのですが、何カ月かたってその成果が出始め、喜んだ社長がTOEICを受けさせたところ、ほとんどが400点台で、がっかりとしたという話があります。