英会話といえば、真っ先に海外留学を考える人も多いと思いますが、留学を成功させることはそう簡単ではありません。この日経ビジネスオンラインにもその点を指摘した記事がありますし、ネット上にも多くの書き込みがあります。
そういう意味では、国内にいて、初めから英語を「外国語」として意識し、少々“教科書的な英語”を使ってでも、「しっかりとコミュニケーションができる」という点を目指す方が良い結果を生むということも十分に有り得ます。
実際のところ、私はどちらかというとそのアプローチで英語を勉強しました。つまり、市販のテキスト類を使って少々理屈っぽく英語を学んだのです。でも、この、いわば平凡な学習方法のおかげで、学習を始めて早い段階で、ネイティブに、例えばSSC(※)について教えたり、PR(Public Relations)の意味について議論したり、日本語の発想と英語の発想の違いについて説明したりすることができるようになりました。また、海外でも、空港やホテル、果てはドラッグストアなどで、必要なコミュニケーションができるようになりました。
(※)Superconducting Super Collider=1980年代にアメリカで計画されていた巨大な粒子加速装置。
ところが一方で、とてもやっかいな問題に直面しました。それは、日常の、何でもないカジュアルな会話が出来ない、相手の言っていることは分かるのに、タイミング良く返事を返せない、という事でした。
ネイティブに英語で教えることさえあるのに、ごく簡単な会話がスムーズにできない――これは、私にとって、とてつもない衝撃でした(※)。
(※)この体験が、後にベストセラーとなる英会話教材を生み出すのですが、その当時は、なぜそんなにも大きなギャップがあるのか、まったく分かりませんでした。
ところが、よく振り返ると、皮肉なことに、私の周囲には国内で学んで英語を流暢に話すことのできる人が何人かいたのです。その人たちとも、議論だと決して引けはとらず、むしろ教えることの方が多かったのですが、日常のちょっとした軽い会話になるとなぜか押される。その中には、ネイティブから、「同郷だな。お前はどこの町の出身なんだ」などと聞かれる人がいる始末。
では、彼らはいったいどのようにして英語を身に付けたのでしょうか――その答えが前回にご紹介した「映画・ドラマ」だったのです(※)。
(※)面白いことに、彼らは逆に、どうして映画やドラマを利用せずに私が国内で英語を習得したのか首を捻っています。
今から思うに、映画やドラマが最強の学習素材であることは確かです。なぜなら、緻密に考えられたストーリー展開によって、ある意味で「リアル以上にリアルな世界」 へと入っていくことができるからです。そのとき、もちろん、頭は最高の集中状態にあります。つまり、映画やドラマは、それ以上は望めないほどパーフェクトな学習環境を、30分あるいは2時間といったコンパクトな時間に詰め込んで与えてくれるわけです。
無理やり問題を解かされるわけでもない、ペアを組まされて特に話したくもない事を話す必要もない、ストップウォッチで時間を測られることもない――そこにあるのは、「あなただけの理想的な英語学習の空間」なのです。
ところが、会話力がほぼゼロの初心者(私たちのほとんど)にとって、映画やドラマはハードルが異常に高い。
私もチャレンジしたことがあるのですが、英検1級にパスし、さらには外交官が受ける英検特A級にも合格していたにも関わらず、全くといっていいほど内容が聞き取れず、また字幕を見ても意味が分からず、あっという間に撃沈されてしまいました。
それで、長い間映画・ドラマを“封印”していたのですが、ある程度のレベルになって観てみると、やはり最高の学習素材だと思わざるを得ないわけです。全部とは言わなくても、一部だけでも学習に取り入れた方が良い。必ずプラスになる。
以下に、その利用方法についてチェックしてみます。
映画やドラマを活用する手順① 選別
映画・ドラマは良薬であり劇薬です。ですから、まず大切なのは、選別して適切なものを厳選することです。思いつくものからリストアップしていくと、「そういえばこの映画もう一度観たかった」と思うケースも出て来ます。スクリーニングの条件は次の通りです。
(1)とにかく大好きで何回でも観たくなる
「ハリー・ポッター」や「スター・ウォーズ」を10回以上観たといった兵(つわもの)がいますが、この感覚、このこだわり、このオタク度がまず必須の条件です。大抵の人にそういった作品が一つや二つはあるものですが、もしなければ、あまり構えずに、好きなジャンルのものを片っ端から観ていけば、きっと好きなものが見つかります。なんせ、作っている側の人たちも、観てもらいたいと思って全力を尽くしているわけですから。
ごく単純に言うと、(1)だけで十分に条件を満たしているとも言えるのですが、取りあえず残りの条件にも目を通してみてください。
(2)スラングが多用されていない。むしろ標準的な英語が使われている
これは初心者では分かりませんので、ネイティブの友人、もしくは違いが分かるレベルの英語力を持っている人にアドバイスをもらって下さい。とくに、アクション系、ホラー系は、アギャ~~ッとかワ~~ッなどから始まって、トンデモない俗語がポンポンと飛び出てくる作品が多いです。
少々古いですが、私的にはシルベスター・スタローンの「ロッキー」の英語に仰天したことがあります。
逆に、エンタメ系やホームドラマ系のものは、「誰もが楽しめる」という点に最大の力点が置かれていますので、“安全なセリフ”が多いです。
(3)丁寧な和訳と解説がネット上にある。もしくは出版されている
今の時代、英語字幕・日本語字幕を自在に切り替えることができ、場合によっては速度調節までできたりもしますが、それでも映画・ドラマにはあっと驚くような語彙や表現が随所に(サラリと)出て来ますので、スクリプト(台本)とワンポイントの解説があると、学習の負荷が大きく変わります(※)。
(※)ネット辞書や電子辞書も便利なのですが、ピンポイントで訳を示してくれるわけではありませんので、結構面倒です。
(4)セリフの短いものが多い
これも、学びやすさを大きく変えますので、注意を払いたいところです。意外にシリアスな映画に短いセリフが多かったり、エンタメ系のセリフに長いものが多かったりします。当たり前ですが、短いセリフは耳に残しやすいですし、意味もシンプルで、分かりやすいものが多いです。さらに、たとえよく分からないときでも、調べやすくもあります。
(5)セリフの数が多い
いっきに話がセコくなりますが、(明らかな理由で)セリフの多い方がベターです。日常会話で使えそうなものが多いと尚可。ただし、例えば旅行会話で出てくるような実用表現が数珠つなぎに出てくるなどということは有り得ませんので、その点はある程度のところで手を打つ必要があります。
映画やドラマを活用する手順② 吹き替え版を心行くまで楽しむ
選択が終わったら、改めて、吹き替え版で心行くまで内容を楽しんで下さい。何度も観た作品でも、もう一度観ると新しい発見があったりもします。
ただし、「よ~~し、それだったら何度も観てあらゆるシーンを覚えて……」などとは考えないようにして下さい。そんなガリ勉のようなことをやっては意味がありません。「楽しい」に「学習」をくっつけるというのが、映画・ドラマを活用する最大のポイントなのですから。
ちなみに、実際のセリフの英語と吹き替え版(+字幕版)の日本語との違いを気にする人がいますが、そのような心配は無用です。大切なのは、全体として、そのストーリーの内容や面白さがしっかりと伝わることで、それさえ出来れば、あとは「どう料理するか」、だけの問題です。
吹き替え版(+字幕版)では、文化の違いなどのために、そのままダイレクトに訳するとひんしゅくを買うような表現や、誤解を呼ぶような言い回しは巧妙に避けられています。また、セリフの長さに合わせた調整もかけられています。
実際に比べると分かりますが、英語と訳に違いがあると、むしろ、翻訳者がどういう配慮をしているか、どういう工夫をしているか、何を避けているかなどが分かって面白いものです。
映画・ドラマは私たちにとって難攻不落の要塞のようなものです。しかし、一度その面白さ、深さを知ると、これを使わない手はないときっと思うはずです。また、映画・ドラマは一見資格試験とは何の関係もないように思えますが、ハマった人というのは、問題をほとんど解かなくてもあっと驚くような高スコアを取ったりもします。
噛んでも噛んでも、まだ噛みたらない――それが映画・ドラマの魅力です。
次回はあと2点、気を付けたいポイントについて触れ、さらに実際にいくつか実例を挙げて比較してみたいと思います。
英語に関する限り、私たちの能力は30%程度しか引き出されていません。これはとても残念なことです。このコラムでは、どうすれば残りの70%の能力を発揮できるかについて、日本語を活用するという手法を中心にさまざまな観点からお話ししていきます。
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