例えば引っ越し業界は競争が激しい(写真=PIXTA)
例えば引っ越し業界は競争が激しい(写真=PIXTA)

 本連載において筆者は、企業や産業を評価する基準として、以下の3つに言及した。

(1) 生産性:ただし労働生産性には問題があり、生産の効率性に正しく対応している生産性指標はTFP(全要素生産性)である。

(2) 収益性:経済学にのっとった基準だが、純粋であるが故に一面的でもある。

(3) 筆者の基準:「よりよいものをより安く提供する」という、財・サービスの供給者としての企業・産業のパフォーマンス。これは消費者の視点であり、国際比較の文脈では「国際競争力」に相当する(以下では、簡潔に表現するための便宜上、この基準を「国際競争力」と呼ぶ。ただしサービスには貿易ができないものが多いので、その場合は「潜在的な」国際競争力を意味している)。

 これらは互いにどう関連し、そしてどの基準が正しいのだろうか。今回はこの点について考え、それを踏まえて、近年盛んな生産性論議の問題点を明らかにする。

3つの評価基準の関係

 評価基準の関係を図示すると、下に掲げた図5のようになるというのが筆者の解釈である。この図に示されているのは、それぞれの基準を改善する要因の集合である。例えば、領域Cには生産性を改善する要因、領域B+Cには収益性と国際競争力を共に改善する要因が含まれている。

 図において、生産性は収益性と国際競争力に包含されている。つまり生産効率の改善は、企業収益と国際競争力を改善する(*1)

*1 生産性の改善が収益性を高めるのは直感的に明らかだが、国際競争力の方はどうか。企業の目的は利潤追求であり、よいものを安く売ることではないとすれば、生産効率の改善が産出物価格を低下させるとは限らない。しかし生産効率が改善した企業は、利潤追求の結果として産出量を増やす。これは産出物市場の需給を緩和し、結果としてより安い財・サービスが供給され、消費者に便益を与える。

 しかし、収益や国際競争力の源泉は生産性だけではないので、生産性の改善を伴わずに収益性、国際競争力が改善するケースはいくらでも考えられる。

図5 企業評価基準間の関係
図5 企業評価基準間の関係

 例えば、生産要素価格(賃金や資本コスト)の低下は生産性とは無関係だが、収益性、国際競争力を高める(領域B)。為替相場の減価は企業全般の国際競争力を高めるが、収益性を改善するかどうかははっきりしない(領域BまたはD)(*2)。また、産出物価格に影響を与える要因(例えば需要の変化)は、収益性と国際競争力に逆向きの影響を与える(領域AまたはD)(*3)

 そして、領域Bに含まれる極めて重要な要因として、消費者のニーズに応える、あるいはニーズを創出するような商品やサービスの開発が挙げられる。GAFAに代表されるIT関連企業や、一昔以上前のわが国製造業企業は、いずれもこの要因により世界的な成功を収めている。

*2 原材料を輸入し国内で製品を販売している企業は、為替減価により収益が悪化する。しかしそのような企業や、収益が為替相場から直接の影響を受けない企業(サービス業企業の多くがこれに含まれる)でも、為替が減価すると外貨建て価格が下がるため、(潜在)国際競争力は改善する。
*3  産出物価格を上昇させる要因は領域A、下落させる要因は領域Dに含まれる。

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