製品と違い比較が難しいサービス。その国際競争力は?(写真:PIXTA)
製品と違い比較が難しいサービス。その国際競争力は?(写真:PIXTA)

 前回、筆者の企業評価の基準として、「よりよい財・サービスをより安く供給する企業がよい企業だ」という考え方を提示した。そして国際比較の文脈では、この基準を企業の「(潜在的な)国際競争力」と解釈できることを示した(*1)

*1 サービスの多くは貿易が難しいため、「国際競争力」が架空の概念にすぎないケースがままある。このため、ここでは「潜在的な」という文言を付け加えている。

 このような基準が、経済学の教科書に載っているわけではない。筆者が滞米中に感じた、「日本のサービス業は米国と比べて(しばしばはるかに)優れている」という実感の根拠を自身に問い、帰納的にたどり着いたものである。筆者とサービス業の関わりはあくまで消費者としてなので、無意識の内にこのような基準を使ってきたのだろう。

 今回は、この基準の下で日米サービス業がどう比べられるか、実例を通じて考える。比較の際に鍵となるのは、「質の差の評価」「日米サービスの相対価格(購買力平価、以下PPP)」「為替相場」の3つだが、このうち質の差については、深尾・池内・滝澤(2018)が質調整に用いたサーベイ(日本生産性本部(2017)、以下「サーベイ」)を参考にする。このサーベイは価格についても日米の差を尋ねているため、その結果にも適宜言及する。また為替相場については、1ドル=100円という区切りのいい数字を使用する。

日米のサービスを同一通貨で比較

 例えば以下で東京と米ニューヨーク(NY)のタクシー運賃を比べる際には、円、ドルそれぞれで表された運賃(PPPに相当)を 1ドル=100円で同一通貨に換算し、どちらがどの程度割高かを調べている。

ニューヨークのタクシーは世界的に有名だが……(写真:PIXTA)
ニューヨークのタクシーは世界的に有名だが……(写真:PIXTA)

<例1>東京とNYのタクシー
 タクシーの運賃体系を東京とNYで比べると(NYはチップ15~20%を含むベース)、1キロメートル程度までの短距離だと東京が割安、これを超えるとNYが割安となり、その後は距離が延びるほどNYの割安度合いが高まる。

 一方サーベイによると、タクシー・サービスの質に関する日本人の回答は17.9%の日本優位となっている(*2)。この評価は、筆者の実感と大きく異ならない。また、価格についての回答は「日本が2.5%高い」で、これは上に示した運賃体系と整合的である。つまりタクシーのケースでは、サーベイの結果に違和感や疑問はない。

 質・価格を組み合わせると、東京のタクシーの国際競争力は、NYを15%程度(=17.9-2.5)上回っていることになる。これは大きな日本優位ではないが、少なくとも日本劣位ではない。

*2 正確に言うと、「日本のサービスをアメリカで利用できるならどれくらい余分に支払ってもよいか」という質問に対し、得られた回答の平均が17.9%である。つまり質格差の評価は、金額ベースで表されている。

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