生産性概念の限界を知ることは、その概念に依拠した分析や主張の限界を知ることにつながり、通説の真偽を判断する上でも有益である。そこで本稿では、前稿に倣って筆者の実感とその背景を述べるだけでなく、巷間(こうかん)使われている生産性概念が何を意味するのか、生産の効率性を測定するという目的にどの程度合致しているのかといった基本的な点についても、説明することとしたい。

生産性を計測するということ

 「生産性」という言葉は日常的に使われており、何らかの作業をする際の効率性を表す。そして、身近な作業において効率性が何を意味するか、我々は直感的に理解できる。例えば、経理担当の社員2人が2日かけていた毎月の勘定経理が、アプリの使用で社員1人、半日の作業でできるようになれば、事務の効率化が達成され、生産性が8倍になったと我々は認識するだろう。

 しかし、企業や産業の生産活動や国全体の経済活動の効率性を計測するのは、そう簡単ではない。

 個々の企業や産業は複数のインプットを使用し、複数のアウトプットを産出しているが、これらをどのように集計し、単一の生産性指標で表すのか。そして、どのような指標なら生産の効率性を的確に捉え、かつ容易に算出できるのか。こうした観点から、研究者や実務家によって実際に使われている2つの指標、すなわち「労働生産性」と「全要素生産性(TFP)」を順次説明し、その得失を明らかにする。

労働生産性とは何か

 労働生産性(labor productivity、以下LP)とは産出量を雇用量(全雇用者の労働時間の合計)で割ったものであり、「物的生産性」とも呼ばれる。金づちを製造する企業を例にとると、LPは労働投入1時間当たり何本の金づちが作られるかを表す。このとき、LPが高い企業ほど、その生産過程は効率的だと推論できそうに見える。

 実際にLPを計算する際には、中間投入物の影響に配慮する必要がある。金づちの製造企業が2つあり、そのうち企業Xは金属製の頭部、木製の柄を内製し、これらを組み立てて金づちを作るが、企業Yは頭部、柄を他企業から購入し、組み立てだけしているとしよう。両者を比べると、XはYよりずっと多くの工程を社内で抱え、より多くの労働者を雇用しているため、LPの値は低くなる。しかし、これをもってXの生産効率がYより低いと見なすことはできないので、LPの算出方法を工夫する必要がある。

 1つの分かりやすい調整方法は、LPの分子である産出量から、中間投入物の有無や大小が及ぼす影響を取り除くことである。しかし、最終的な産出物と中間投入物は違う財なので、単純に引き算することはできない。そこで、次のような生産性指標を使うことが考えられる。

 LP*=[(産出物の価値 – 中間投入物の価値 )/産出物の価格)]/労働投入量

 つまり、まず価格を加味した価値ベースで中間投入物の影響を除去し、それを産出物の価格で割ることで実質化する。このとき、「産出物の価値-中間投入物の価値」は企業の「付加価値」に相当するので、LP*は「付加価値生産性」とも呼ばれている。巷間使われている労働生産性指標は、このLP*である。

 LPは個別企業のみならず、同一財を産出する産業全体について計算することもできる。また、分子として付加価値を用いれば(つまりLP*を使用すれば)、産出物や投入物が複数あるケースにも対応でき、産業を越えて国全体について計算することも可能である。

 この場合、付加価値を実質化する際に用いられる「産出物の価格」には、多くの産出物価格を合成する指数(いわゆる「デフレーター」)を用いる必要がある。デフレーターの作成には様々な技術的問題があるが、CPI(消費者物価指数)やGDP(国内総生産)デフレーターを作成する際にも生じる問題であり、労働生産性固有のものではない。

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