「世界的に低い」とされる日本の生産性に対し、関心が高まっている。学者や専門家が相次いで著作を出版し、政府機関、研究機関、評論家、メディアなどが生産性向上の必要性やそのための方策を論じている。政府が毎年策定するいわゆる「成長戦略」も生産性に頻繁に言及し、2018年6月には「生産性向上特別措置法」と銘打たれた新法が施行されている。
では、彼らの言う「生産性」とは何なのか。何を根拠に「日本の生産性は低い」と批判され続けているのだろうか。とりわけ、サービス業の低生産性をやり玉に挙げることも多い。
経済学者である筆者・武田真彦氏は米国で16年、スイスで3年暮らし、その間に日本と外国を比べる機会が多々あったという。その経験を通じ、日本のサービス業が欧米と対比して著しく劣っているとは思えず、むしろ総じて極めて優秀だと感じてきたことから、この実感を説明しようと思い立った。
とはいえ筆者は生産性やそれに関連する分野(企業の生産、雇用、投資など)を専門とするわけではない。本稿の執筆にあたり、専門家の手になる研究書、解説書、論文等にさらに目を通し、碩学(せきがく)による多くの分析があり、その基礎となるデータベースが長年構築されてきたことを知った。しかし同時に、研究書や論文はもちろん、一般読者向け解説書においても、生産性概念の意味や限界について十分説明されていないと感じた。
生産性概念の限界を知ることは、その概念に依拠した分析や主張の限界を知ることにつながり、通説の真偽を判断する上でも有益である。そこで本連載では、筆者の実感とその背景を述べるだけでなく、巷間(こうかん)使われている生産性概念が何を意味するのか、生産の効率性を測定するという目的にどの程度合致しているのかといった基本的な点に立ち返り、解き明かしていく。
なお本連載では、雑誌の連載らしい分かりやすさを追求するのではなく、「生産性が低い」という言説の裏にある、正確とは言えない上に分かりづらい「生産性指標」の実態と限界を、詳細に検討する。