グローバルチームを率いる日本人に、ぜひ頭に入れておいてほしい日本文化の特徴がある、というメイヤー教授。国内のみで活動する企業で、文化を分析する意義についても尋ねた。

INSEAD(インシアード)のエリン・メイヤー教授が提唱する多文化分析のツール「カルチャー・マップ」は、各国の文化を多面的かつ相対的に捉える重要性を説くものだ。これまでに世界67カ国の文化をマッピングしたが、とりわけ日本の文化は特徴的だという。
「世界各国のカルチャー・マップを比較すると、米国、イスラエル、オランダなどいくつか個性的なマップを持つ国があり、日本もその1つだ。8つの行動指標のほとんどで左右両極に位置している、つまりどの指標においても他国より極端な傾向があるのだ」
8つの指標のなかでも、マネジメントという観点から最も重要なのが「リーダーシップ」と「意思決定」の2つだとメイヤー教授は指摘する。リーダーシップは地位や肩書にこだわらない平等主義か、こだわりの強い階層主義かを示すのに対し、意思決定はチーム内での合意形成を重んじるかトップダウンかを示す。トップダウンの文化では、トップによる「ちゃぶ台返し」も珍しくない。両者の違いに無頓着であることが、チームの不協和音の原因になるケースが多いという。
「例えば米国のケースを見ると、リーダーシップは平等主義的だ。管理職は部下とファーストネームで呼び合い、会議中は意見を言うよう促す。しかし意思決定の場面ではトップダウン型になるケースが多く、他の文化の出身者は面食らうことも多い。
だが米国以上にユニークなのが日本だ。アジアの多くの国と同じように日本のリーダーシップは階層主義的だ(図の右半分)。上下関係がはっきりしていて、部下が人前で上司に意見することはめったにない。リーダーシップが階層主義的な国の多くは、意思決定はトップダウン型になる(図右上)。迅速で柔軟、一度決まったことでもすぐに変更や修正がある。中国やインドがこうしたケースだ。一方、日本の意思決定は合意型だ(図右下)。組織のなかで合意を積み上げていく。意思決定に時間はかかるが、ブレずに迅速に実行される。
リーダーシップと意思決定という2つの指標で、日本ほど正反対の極へ大きく振れる国は他にない。階層主義と合意主義の共存という珍しいパターンが、他文化の人から見て日本の組織やリーダーは分かりにくいという印象を与え、摩擦を生む原因になる。同じようにヒエラルキーを重視するにもかかわらず、インド人は日本人リーダーが意思決定に時間をかけ過ぎるとイライラし、日本人はインド人リーダーが一度決めたことをすぐに覆すとイライラする」
意思決定の仕方にも文化がある
2017年に米ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された論文(Being The Boss In Brussels, Boston, and Beijing)で、メイヤー教授は2014年にサントリーに買収された米ビームのマネジャーが直面した文化摩擦を取り上げている。ビームに関わる重要な問題が生じ、日本まで出向いて担当役員の前で説明する機会を与えられた米国人マネジャーは、日本側を説得する好機と考えてパワーポイントを準備した。
だが会議が始まると、すでに結論は出ていて、その場で周囲を説得しようとしても意味がないことが分かった。日本的な「稟議(りんぎ)」や「根回し」の概念を理解したこのマネジャーは以降、米国の常識よりはるかに早いタイミングでインプットを出すよう心がけるようになった、というエピソードだ。
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