イノベーティブで強靱(きょうじん)な企業文化をどう作るか。組織内の文化摩擦をどう乗り越えるか――。フランスの名門ビジネススクール、INSEAD(インシアード)のエリン・メイヤー教授は、グローバル企業が抱える文化の問題と向き合ってきた。米ネットフリックスなどのケースを取り上げ、組織文化のマネジメントについてメイヤー教授に聞く。
ここ数年は動画配信サービス、米ネットフリックスのリード・ヘイスティングス共同創業者兼CEO(最高経営責任者)とともに、同社の企業文化を分析。その成果を共著で『NO RULES : 世界一「自由」な会社、NETFLIX』(日本経済新聞出版)にまとめた。
コロナ禍の巣ごもり需要を追い風に、2020年末の会員数が世界で2億人を突破するなど急成長が注目される同社だが、その原動力は自己変革とイノベーションの文化だという。1998年のサービス開始時はDVDを郵送レンタルしていたが、2007年にはストリーミング中心に事業を転換。外部から買い付けていたコンテンツについても2010年代初頭から自社制作を開始し、アカデミー賞やエミー賞の常連となった。同10年には海外展開に乗り出し、今では会員の半数以上を北米以外が占める。
ネットフリックスのような、自己変革を繰り返すイノベーティブな組織の条件は何か。日本企業もそのやり方を取り入れることはできるだろうか。
「世界的にまだ圧倒的に多くの企業が、工業化時代の発想で動いている。業務の効率化やミスの防止、一貫性や再現性を優先し、プロセス(手順)やルールを次々と作る。しかし今日の企業にとって最大のリスクは、イノベーティブで斬新なアイデアを生み出せず、時代に取り残されることだ。
ネットフリックスの新しさはイノベーションを最優先すると決め、クリエーティビティを阻害するようなプロセスやルールは排除し、社員の能力密度を高めて自由を与えるという方針を明確にしたことにある。
起業家精神あふれるスタートアップ企業ではルールは少なく、イノベーティブで柔軟性も高いのは誰もが知っている。ただ企業が大きく複雑になっても、管理するためのプロセスやルールを設けず、代わりに能力密度を高めるべきだと考えたのはネットフリックスが初めてだろう」
![<span class="fontBold">エリン・メイヤー[Erin Meyer]</span><br>仏INSEAD(インシアード)マネジメント実践教授<br> 大学卒業後、米政府が運営するボランティア組織「平和部隊」の一員としてアフリカで2年間英語を教える。2010年からINSEAD客員教授。専門は異文化経営で、企業幹部向けプログラム「国境と文化を超えるリーダーシップ」のディレクターも務める。世界各国の文化を8つの指標で分析する「カルチャー・マップ」で注目を集め、世界で最も影響力のある経営思想家を選ぶ「Thinkers50」に過去2度選出されている。](https://cdn-business.nikkei.com/atcl/seminar/20/00046/072600001/p1.jpg?__scale=w:500,h:333&_sh=0410450630)
仏INSEAD(インシアード)マネジメント実践教授
大学卒業後、米政府が運営するボランティア組織「平和部隊」の一員としてアフリカで2年間英語を教える。2010年からINSEAD客員教授。専門は異文化経営で、企業幹部向けプログラム「国境と文化を超えるリーダーシップ」のディレクターも務める。世界各国の文化を8つの指標で分析する「カルチャー・マップ」で注目を集め、世界で最も影響力のある経営思想家を選ぶ「Thinkers50」に過去2度選出されている。
米ネットフリックスCEO(最高経営責任者)リード・ヘイスティングス氏との共著『NO RULES : 世界一「自由」な会社、NETFLIX』(日本経済新聞出版)ではイノベーティブな組織の条件として①「能力密度」、②「率直さ」、③「自由度」、の3つを挙げた。

まず優秀な人材を採用し、抜群の成果が上げられない社員を解雇することで、能力の密度を高める。そうすれば優秀な社員同士が率直にフィードバックを与え合うことにより、仕事の質全体が高まる。また優秀な社員の裁量を認めることを通じて判断の質を高め、いちいち上司に決裁を仰がずに済むようにすれば、クリエーティブなアイデアが迅速に実行されるようになる、という論法だ(下図)。
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