「お客様第一主義」「顧客目線」など、顧客のニーズや感覚を大切にする趣旨の言葉を多くの企業が経営の目標に掲げている。だが、そうした企業はビジネスの結果を左右する顧客の心を見ているのだろうか? 顧客行動の結果でしかない売り上げや利益など財務諸表しか見えていないのでは——。そう問いかける西口一希氏は、P&Gで「パンパース」や「パンテーン」などのブランドを手掛けた後、ロート製薬やロクシタンジャポン、スマートニュースの事業を成長させてきた。さらに、その経験を生かしてM-Forceを共同創業し、多くの企業を支援している。西口氏による本連載では、マーケットを構成する顧客の全体の姿を可視化・定量化し、動態で捉えて事業成長に直結させる「顧客起点の経営」をひもといていく。

 今回は、予約プラットフォームや電子チケット販売など、BtoCとBtoBの両面でレジャー産業を支えるアソビュー代表の山野智久氏との対談をお届けする。同社はコロナ禍の影響で、売り上げが95%減まで落ち込んだ。「顧客の課題を解決する以外に、企業の存在価値はないと気付いた」と話す山野氏は、いかにしてV字回復を遂げたのか?

アソビュー代表の山野智久氏
アソビュー代表の山野智久氏

レジャー施設のDXを支援するアソビュー

西口一希氏(以下、西口氏):今回は、アソビューの山野さんをお迎えしました。コロナ禍で売り上げが95%減となったところからの回復劇を、今年4月にはNHKの番組『逆転人生』で取り上げられていましたね。まず、アソビューの事業と山野さんご自身について、ご紹介いただけますか?

山野智久氏(以下、山野氏):アソビューは「生きるに、遊びを。」という言葉をミッションに、遊びやレジャーの予約プラットフォーム「アソビュー!」や、レジャー施設向けに電子チケット販売といったDX(デジタルトランスフォーメーション)支援などを展開しています。併せて、地方自治体に対して地方活性化の支援も行っています。

 私自身は学生時代にも一度起業していまして、新卒でリクルートに3年勤めた後、2011年にアソビューの前身となる会社を立ち上げました。

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西口氏:遊園地や水族館といった施設がアソビューのシステムを導入すると、主にどういったメリットがあるのですか?

山野氏:各施設の公式ホームページ上に設ける販売システムに加え、「アソビュー!」や各種の提携サイトで、幅広く集客ができます。同時に、現地でチケットを販売する手間を効率化し、販売データの分析から施設運営の改善もできます。顧客は現地でチケット購入のために行列しなくて済みますし、時間指定発券によるピーク緩和も可能なので、顧客満足度も向上します。

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西口氏:BtoB、BtoC双方の課題を解決する、優れた仕組みですよね。実際、2019年までは順調に伸びていたと思います。私はちょうど19年末に、山野さんからお声がけいただいてコンサルタントとして入ることになりましたが、なぜ顧客起点の改革が必要だと思われたんでしょうか?

山野氏:おっしゃる通り、数字は順調に伸びていました。ですが私としては、マネジメントにおいて「KPI(重要業績評価指標)設定」と「指針の共有」という主に2つの課題を抱えていました。販売数や金額などの数字は伸びているのに、自分自身が毎週チケット予約をしながらも、いまいち「便利なサービスになっている」実感がなかったんです。なので、そもそもKPI設定が間違っているのでは、と。

 また、組織も大きくなる中で、どうしても「お客様のために」という観点が文化として浸透しきらないと感じるようになっていました。そんなときに西口さんの著書(『実践 顧客起点マーケティング』翔泳社)に出合い、自分と組織に欠けているのは徹底して顧客に向き合うことではないかと、サポートを直談判しました。

顧客の課題を解決すること以外に企業の存在価値はない

西口氏:山野さんと最初にじっくり話したとき、そもそもこの事業がご自身や周囲の方々の「余暇を豊かに過ごしたい」というニーズから生まれた、まさにN1(実在の1人の顧客を意味する。n=1に由来)を起点にしたものだと知りました。実際、それに基づいて良いプロダクトをつくられていたと思います。

 ただ、企業側で捉えているのと実態とで、顧客像にはかなり乖離(かいり)がありましたね。属性上では20~30代女性の顧客が多かったから、女子会やカップルでの利用が中心だと見ていらした。

山野氏:そうですね。家族構成や利用シーンまで、しっかり見えていなかったと思います。「20~30代女性が多い」という事象をもっと掘り下げようと、初めてN1インタビューを実施したところ、メインの需要は30代女性のファミリー利用でした。自分では顧客を見ているつもりでも、全然分かっていなかったのだと痛感しましたね。その後すぐに、実態に合わせて提案やコミュニケーションを調整しました。

西口氏:実際に直接お客様に話を聞いて、どういった手応えがありましたか?

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この記事はシリーズ「「顧客起点の経営改革」~経営に「顧客」を取り戻せ」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。