「お客様第一主義」「顧客目線」など、顧客のニーズや感覚を大切にする趣旨の言葉を多くの企業が経営の目標に掲げている。だが、そうした企業はビジネスの結果を左右する顧客の心を見ているのだろうか? 顧客行動の結果でしかない売り上げや利益など財務諸表しか見えていないのでは——。そう問いかける西口一希氏は、P&Gで「パンパース」や「パンテーン」などのブランドを手掛けた後、ロート製薬やロクシタンジャポン、スマートニュースの事業を成長させてきた。さらに、その経験を生かしてM-Forceを共同創業し、多くの企業を支援している。西口氏による本連載では、マーケットを構成する顧客の全体の姿を可視化・定量化し、動態で捉えて事業成長に直結させる「顧客起点の経営」をひもといていく。

 今回は、機械部品を中心にグローバルで約33万社に販売するミスミグループ本社から、常務執行役員ID(Industrial Digital Manufacturing)企業体社長の吉田光伸氏がゲスト。AI(人工知能)を活用したオンライン機械部品調達サービス「meviy(メヴィー)」における、顧客起点の考え方について聞いた。

部品調達にかかる時間を9割短縮する「meviy」

西口一希氏(以下、西口氏):御社では2016年から、部品調達のプラットフォーム「meviy」を展開されています。ここ数年で顧客数も劇的に増加し、製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の代表例として注目を集めています。先日、トヨタ自動車との共同開発プロジェクト第1弾として、製造情報を自動で連携する機能が追加になりましたね。

吉田光伸氏(以下、吉田氏):はい、トヨタ自動車の協力によって、meviyの新しい機能が生まれました。トヨタグループでの使用にとどめず、広くmeviyユーザーに使っていただけます。同社と我々の双方に、日本のものづくり領域のDXを後押ししたい意図があり、こうしたプロジェクトにつながりました。

ミスミグループ本社 常務執行役員 ID企業体社長の吉田光伸氏
ミスミグループ本社 常務執行役員 ID企業体社長の吉田光伸氏

西口氏:今後が楽しみな取り組みですね。では、改めて御社の事業について教えてください。

吉田氏:1963年に創業したミスミは、製造業の企業向けに、その工場の設備や装置に必要な部品の製造・販売を手掛けてきました。当初は部品ごとに図面を受け付けていましたが、77年に業界に先駆けて「カタログ販売」と「標準化」を実現し、部品調達における大幅な効率化を図りました。

 調達領域は、とにかく時間がかかることが、従来の大きな課題です。通常、まず紙の図面を描き、それをFAXで加工会社などに送って見積もりを依頼し、戻りを待つ。発注してからの製造にも時間を要します。そこで、紙の図面を描かなくても部品をカタログから簡単に選べるようにしたのです。同時に「半製品」という、最終仕上げの手前まで製造を進めたものをストックし、受注したら最短で納品できる仕組みを整えました。

77年、ミスミは「カタログ販売」と「標準化」を整備し、部品調達を大きく効率化した。
77年、ミスミは「カタログ販売」と「標準化」を整備し、部品調達を大きく効率化した。
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西口氏:この仕組みによって、一定の時間と手間の短縮ができたわけですね。

吉田氏:ええ。これらが当社の最初のイノベーションであり、グローバルで33万社もの顧客と取引をするまでに成長した強みでもあります。ただ、40年かけて3000万点超、バリエーションを含めると800垓(がい、1兆の800億倍)まで品ぞろえを増やしたのですが、それでも足りないんです。顧客が求める部品のうち約半分は、カタログではカバーできないカスタマイズが必要であるため、昔ながらの方法で注文していただくしかありませんでした。

 そこで再びのイノベーション、”リ・イノベーション”として位置づけて構築したのが、カスタマイズ品の調達もデジタルによって圧倒的に効率化するmeviyでした。

西口氏:具体的に、どういうサービスなのですか?

吉田氏:3D CADデータをアップロードするだけで、AIによって即時に価格と納期を提示し、受注と同時にデータから加工プログラムを自動で生成、部品を製造して最短1日で出荷することができます。仮に1500点の部品を調達するのに、図面を描くところから始める従来の方法では約1000時間かかるところ、meviyでは92%減の約80時間で行えます。

 顧客数は順調に伸びており、事業の本格展開を開始した2019年4月時点では約1万人でしたが、今年7月で6万人を超え2年間で6倍に伸びました。オンライン機械部品調達サービスにおいて、2020年の国内シェアを53.5%獲得し、ナンバーワンとなっています。

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