「お客様第一主義」「顧客目線」など、顧客のニーズや感覚を大切にする趣旨の言葉を多くの企業が経営の目標に掲げている。だが、そうした企業はビジネスの結果を左右する顧客の心を見ているのだろうか? 顧客行動の結果でしかない売り上げや利益など財務諸表しか見えていないのでは──。そう問いかける西口一希氏は、P&Gで「パンパース」や「パンテーン」などのブランドを担当した後、ロート製薬やロクシタンジャポン、スマートニュースの事業を成長させてきた。さらに、その経験を生かしてM-Forceを共同創業し、多くの企業を支援している。西口氏による本連載では、マーケットを構成する顧客の全体の姿を可視化・定量化し、動態で捉えて事業成長に直結させる「顧客起点の経営」をひもといていく。

 前回はiPhoneの顧客戦略を考察した。今回は、スマートニュースのユニコーン化(時価総額1000億円超え)を実現した日米同時成長の背景にあった、徹底的な顧客理解と「顧客戦略(WHO&WHAT)」について解説する。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

日米で全く異なっていた顧客心理

 筆者は、ロクシタンジャポンの社外取締役を兼務しつつ、2017年4月にスマートニュースの日本と米国のマーケティング責任者として参画しました。

 スマートニュースはスタートアップ企業として12年に日本で誕生し、ネット上の様々なニュースや情報がスマホで簡単にどこでもまとめて読める初のニュースアプリとして多くの顧客(ユーザー)を獲得し、14年には米国にも進出しました。しかしながら、多数の競合に追随され模倣される中で、新規顧客獲得の伸びが鈍化し、投資対効果が高まらず、次の新しい成長戦略が必要とされていました。

 その後2年の間に、それぞれの国において徹底的な顧客理解を行い、新しい顧客戦略(WHO&WHAT)を確立することで、日本と米国で同時成長を達成しました。19年には、企業価値の評価金額がユニコーンの条件となる10億ドル(約1100億円/1ドル110円換算)に達しました。

(参照:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48131630S9A800C1FFR000/)

 実は、この成長は日本と米国それぞれに異なる顧客戦略を展開することで達成したのですが、今回はその事例を紹介します。

 まず課題として日本、米国どちらにおいても、そもそもの認知が低いことが課題であることは明白でした。筆者自身で行った調査でも、スマートニュースのブランド認知は日本で30%程度であり、当時、直接競合していたグノシーは40%以上で、10ポイントほど水をあけられていました。スマートニュースは米国では認知がほとんどない状態でした。

 認知形成に投資すべきことは明らかでしたが、単に「様々なニュースや情報が集まっているアプリ」としての訴求では競合と同じであり、投資対効果は期待できません。認知形成への投資においては、競合が提供できない「スマートニュースを使う独自の便益」を「特定の顧客」に提供しなければならないのです。

 その独自のアイデアと特定の顧客の組み合わせ、すなわち、顧客戦略(WHO&WHAT)を見つけるために、日本と米国において顧客理解と個別のインタビューを行いました。合計すると200以上のアイデア候補を検証しながら、顧客ニーズとのマッチングを探っていったのです。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り2500文字 / 全文3910文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

世界の頭脳に学ぶウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「「顧客起点の経営改革」~経営に「顧客」を取り戻す」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。