「お客様第一主義」「顧客目線」など、顧客のニーズや感覚を大切にする趣旨の言葉を多くの企業が経営の目標に掲げている。だが、そうした企業はビジネスの結果を左右する顧客の心を見ているのだろうか? 顧客行動の結果でしかない売り上げや利益など財務諸表しか見えていないのでは——。そう問いかける西口一希氏は、P&Gで「パンパース」や「パンテーン」などのブランドを手掛けた後、ロート製薬やロクシタンジャポン、スマートニュースの事業を成長させてきた。さらに、その経験を生かしてM-Forceを共同創業し、多くの企業を支援している。西口氏による本連載では、マーケットを構成する顧客の全体の姿を可視化・定量化し、動態で捉えて事業成長に直結させる「顧客起点の経営」をひもといていく。

 今回から、第3のフレームワーク「顧客戦略(WHO&WHAT)」の解説に入っていく。

(写真:Shutterstock)
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新聞というプロダクトの提供する価値

 ここまで、「顧客起点の経営改革」と意義、そして顧客の動態を時系列で把握する「顧客動態(カスタマーダイナミクス)」を紹介してきました。今回からは第3のフレームワークとして、顧客の心をつかむために欠かせない「顧客戦略(WHO&WHAT)」を解説します。

 いつの時代も、顧客は商品やサービスが持つ何らかの「価値」に引かれ、購買や使用という行動に至ります。この価値が今、デジタルが一般化したことで再定義されつつあります。この意味を、一例として「新聞」に注目し、解説していきたいと思います。

 かつては、紙に印字された最新情報を「新聞」というプロダクト名(商品名)で呼んでいました。最新情報を得るための最有力のツールが、紙の新聞だった時代のことです。ですが当時から、プロダクト自体に価値があるわけではありませんでした。たまたま紙という媒体に載った最新情報を取得した読者が、その情報に強い便益と、ほかに変わるものがない独自性を見いだしたことで、対価を支払う「価値」が生まれていたのです。

 一方で今では、情報取得の形態として、デジタル媒体が大きな位置を占めるようになりました。日本経済新聞をはじめとする新聞社も、基本的に紙の新聞と電子版といった形で、デジタル媒体での情報提供に並行して取り組んでいます。PCやスマホで、ネットやアプリなど紙以外の方法で「価値ある情報」が提供されれば、紙自体は価値を持たず、むしろ受け手に無駄なコストを負わせることになってしまいます。

 つまり紙であれ電子であれ、新聞の大きな価値は今も昔も、その情報が与える便益と独自性にあるということです。その上で紙ならではの付加価値として、一覧性や回覧性、見出しの強弱で新しい情報の価値を打ち出せるかが、勝負になるでしょう。電子版の場合は、情報提供のスピードや検索しやすさがカギになりそうです。紙と電子版のどちらを選ぶかは、顧客が何を便益として重視するかによって変わります。

 はやりのDX(デジタルトランスフォーメーション)で考えるべきは、単にアナログなプロダクトや手法をデジタル化することではありません。自社プロダクトが提供している本質的な価値(=便益と独自性)を洞察することなのです。その価値がデジタル化できるのであれば、それは正しいDXであり、もしDXできない価値があれば、もしくは新たにアナログで作り出せるのであれば、それはアナログで提供すればいいのです。

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この記事はシリーズ「「顧客起点の経営改革」~経営に「顧客」を取り戻す」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。