「お客様第一主義」「顧客目線」など、顧客のニーズや感覚を大切にする趣旨の言葉を多くの企業が経営の目標に掲げている。だが、そうした企業はビジネスの結果を左右する顧客の心を見ているのだろうか? 顧客行動の結果でしかない売り上げや利益など財務諸表しか見えていないのでは——。そう問いかける西口一希氏は、P&Gで「パンパース」や「パンテーン」などのブランドを手掛けた後、ロート製薬やロクシタンジャポン、スマートニュースの事業を成長させてきた。さらに、その経験を生かしてM-Forceを共同創業し、多くの企業を支援している。西口氏による本連載では、マーケットを構成する顧客の全体の姿を可視化・定量化し、動態で捉えて事業成長に直結させる「顧客起点の経営」をひもといていく。

理想的な移行を実現したEC「cotta」

 前回は変化する顧客動態を捉えるために、顧客が商品を認知して購買し、ロイヤル化するまでの動線や、購買をやめた(離反した)顧客を再び獲得する動線について解説しました。

 今回は顧客動態をより細かく捉えるために必要な施策について書いていきます。

 顧客動態のフレームワークを運用する際、実際には各セグメントに推計人数を入れ、それぞれのセグメントの間を一定時期にどの程度の顧客が移行したかを記載し、追っていきます。

 具体的な事例として、顧客数が大きく伸びている製菓材料のネット通販「cotta(コッタ)」のカスタマーダイナミクス図を紹介します。同社は一般向けにお菓子やパンの材料やキットを販売しており、魅力的なレシピやコラム、約200人のインフルエンサーとの提携や、通信講座の運営といった特徴があります。我々は同社を2年前からサポートしています。

製菓や製パン用の材料など3万点以上を取り扱うサイト「cotta」は大分県津久見市に本社を置く。有名パティシエやインスタグラマーを起用したレシピも発信し、注目を集める。下の写真は「クマさんちぎりパン」。
製菓や製パン用の材料など3万点以上を取り扱うサイト「cotta」は大分県津久見市に本社を置く。有名パティシエやインスタグラマーを起用したレシピも発信し、注目を集める。下の写真は「クマさんちぎりパン」。

 創業以来約20年、増収を続けていたものの、この数年は伸び悩んでいた状況にありました。

 まず顧客動態と顧客心理を分析したところ、投資活動とコミュニケーション内容が既存顧客に傾注しすぎており、潜在的な新規顧客には認知が形成されていない事実が見えました。そこで、次回購買意向はあるがまだ購買経験のない潜在的な新規顧客セグメントに特化してアプローチすることにしたのです。

 その結果、新規購買を増やし、大きく成長することができました。2017年から19年は微増だった売り上げが、19年から20年には約20%以上伸び、78.6億円になりました。会員数も53万人から120万人に、InstagramやYouTubeなどのSNSフォロワー数は合計100万人近くになっています。

 

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この記事はシリーズ「「顧客起点の経営改革」~経営に「顧客」を取り戻す」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。