「お客様第一主義」「顧客目線」など、顧客のニーズや感覚を大切にする趣旨の言葉を多くの企業が経営の目標に掲げている。だが、そうした企業はビジネスの結果を左右する顧客の心を見ているのだろうか? 顧客行動の結果でしかない売り上げや利益など財務諸表しか見えていないのでは——。そう問いかける西口一希氏は、P&Gで「パンパース」や「パンテーン」などのブランドを手掛けた後、ロート製薬やロクシタンジャポン、スマートニュースの事業を成長させてきた。さらに、その経験を生かしてM-Forceを共同創業し、多くの企業を支援している。西口氏による本連載では、マーケットを構成する顧客の全体の姿を可視化・定量化し、動態で捉えて事業成長に直結させる「顧客起点の経営」をひもといていく。

「サントリー南アルプスの天然水」が戦う相手とは?
前々回でカスタマーダイナミクス図の概要、さらに前回は5segs、9segsを使った顧客の分類について解説しました。まだ全く接触できていない人も含めたターゲット顧客全体=TAM(Total Addressable Market)を定義し、未認知顧客から積極ロイヤル顧客までの9つのセグメントに分け、その間の顧客の動き=顧客動態を把握していくものです。
TAM全体の中での顧客動態に注目すると、単に「購買が増えた」「減った」等を追うだけではつかめない、顧客の心理変化を洞察することができます。あくまで例ですが、ボトル入りウオーター「サントリー南アルプスの天然水」(2020年11月から「サントリー天然水」に変更)を題材に、カスタマーダイナミクスで見ていくと気付けるヒントを解説してみます。
先日、私の知人が東京都内から長野県に引っ越し、ボトル入りウオーターを買わなくなった、と聞きました。これまでは愛飲してくれていた人が離反顧客に移行する場合、競合に奪われるほかに、「水のおいしい地域に引っ越したので水道水でいい、ボトル入りの水を買う必要がなくなった」という理由があります。その場合、自ら競合を選んだわけではないので、プロダクトの購買意向自体は維持されている(「seg.5 積極 離反顧客」に留まる)ことも多く、また別の地域に引っ越しをしたら購買行動が復活するかもしれません。
この方々を積極的にまた購買層に戻すには、どのようなアプローチが有効でしょうか。ここで視野に入れるべきは競合ではなく水道水、しかも「おいしい水道水」になります。現状の顧客心理を考えることで、チャンスが見えてきます。
例えば、おいしいとはいえ水道水なので、塩素消毒がされています。それらを突き詰めると、ボトルウオーターには「おいしさ」以外の便益にチャンスがあるかもしれません。
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この記事はシリーズ「「顧客起点の経営改革」~経営に「顧客」を取り戻す」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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