「お客様第一主義」「顧客目線」など、顧客のニーズや感覚を大切にする趣旨の言葉を多くの企業が経営の目標に掲げている。だが、そうした企業はビジネスの結果を左右する顧客の心を見ているのだろうか? 顧客行動の結果でしかない売り上げや利益など財務諸表しか見えていないのでは——。そう問いかける西口一希氏は、P&Gで「パンパース」や「パンテーン」などのブランドを手掛けた後、ロート製薬やロクシタンジャポン、スマートニュースの事業を成長させてきた。さらに、その経験を生かしてM-Forceを共同創業し、多くの企業を支援している。西口氏による本連載では、マーケットを構成する顧客の全体の姿を可視化・定量化し、動態で捉えて事業成長に直結させる「顧客起点の経営」をひもといていく。
今回は「顧客起点の経営改革」のフレームワークの構造を紹介するとともに、顧客が見ている景色を見る、つまり顧客起点で商品やサービスを考えるコツについて解説する。

「顧客起点の経営改革」を運用する
前回は、「顧客起点の経営改革」フレームワークを使って、「顧客心理」がブラックボックス化して経営から見えていないこと、そのため左端の「経営対象」と右端の「財務結果」の間に顧客の理解が抜け落ちている問題を取り上げました。
「財務結果」を直接左右するのは、すぐ左の「顧客行動」です。その顧客行動を変えるべく、経営が直接管理してコントロール可能なのは、左端の「経営対象」です。この2つの間に「顧客心理」の変化があり、その結果として様々な「顧客行動」につながるのですが、顧客心理が見えていないと、何に投資すべきで何に投資すべきでないか、経営が管理しなければいけない対象が見えません。「顧客心理」がブラックボックスとなっているがゆえに、収益性の向上が望めないのです。
以下、右端から、各ブロックの理想的な状態を説明します。
- 財務結果:経営や投資家が見ている指標は、「財務結果」とその詳細分解である「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」である。それらについて、四則演算の指標を使った分析が実行されている。
- 顧客行動:財務結果の手前にある、売り上げを構成する3要素「顧客数×平均単価×購買頻度」や、その元となる「顧客行動」を可視化して、経営指標としている。
- 顧客心理:顧客の行動を変える要因である「顧客心理」、つまり、なぜ(WHY)を、経営レベルで可視化し管理している。
- 経営の対象:経営が管理すべき様々な投資活動、その活動を支える組織や人事などが可視化、管理されている。同時に、それぞれがどんな顧客心理の変化を生み出し、顧客の行動変化につながっているかを理解できているので、「顧客行動」の変化と「経営対象」の関連を正しく評価でき、投資対効果も分かる。結果として、財務結果が変化した場合、顧客心理に立ち返ることで、どの「経営対象」に優先投資すべきか、止めるべきかを判断できる。変動費と固定費においても、費用削減のための優先順位が明確なので、速やかに圧縮できる。本フレームワークが組織内に共有され、説明可能な状態になっているため、組織内での合意も図れる。
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