「お客様第一主義」「顧客目線」など、顧客のニーズや感覚を大切にする趣旨の言葉を多くの企業が経営の目標に掲げている。だが、そうした企業はビジネスの結果を左右する顧客の心を見ているのだろうか? 顧客行動の結果でしかない売り上げや利益など財務諸表しか見えていないのでは——。そう問いかける西口一希氏は、P&Gで「パンパース」や「パンテーン」などのブランドを手掛けた後、ロート製薬やロクシタンジャポン、スマートニュースの事業を成長させてきた。さらに、その経験を生かしてM-Forceを共同創業し、多くの企業を支援している。西口氏による本連載では、マーケットを構成する顧客の全体の姿を可視化・定量化し、動態で捉えて事業成長に直結させる「顧客起点の経営」をひもといていく。

 今回は「顧客起点の経営改革」のフレームワークを具体的に紹介する。

 なお当初、本連載は16回を予定していたが、読者の方の理解に役立つように、西口氏自らが手掛けたケースなど、企業事例の紹介を増やすこととし回数も柔軟に増やしていく。

(画像:Shutterstock)
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経営の対象と財務結果が断絶している

 前回は、「顧客が見えなくなっている」という根本的な問題について解説しました。今回は、それは具体的にどういうことなのか、「顧客起点の経営改革」フレームワークを用いて明らかにしていきます。このフレームワークは、プロダクトが購入されて財務結果として数字に表れるまでを分解したものです。なお、本連載において「プロダクト」とは、BtoC、BtoBを含めた企業が提供する商品、サービス、事業の総称として使用します。

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 前回、顧客起点の経営のために重要なフレームワークを挙げました。今回は、その1点目のフレームワークの構造を、順を追って解説します。 まず、以下の「経営のブラックボックス」図をご参照ください。黒く塗りつぶした部分は、多くの企業で見えていない「顧客の心理」です。ここがブラックボックスになっているから、本来あるべき姿、つまり健全で成果が上がる事業成長の道筋をたどれなくなっています。

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 どの企業も、右端の「財務結果」すなわち「売り上げ-費用=利益」の数字に関わる財務諸表を事業成長の指標として追いかけています。前回紹介した日本能率協会(JMA)の調査では、2010年(全国4000社が対象、回答632社)も、2020年(全国5000社が対象、回答532社)も経営課題の1位は「収益性の向上」でした。この収益性とは「財務結果」の向上、単純に言えば売り上げの最大化と費用の最小化による利益の最大化です。

 一方で、その財務結果を得るために、経営が対象とするものが左端の「経営対象」です。経営の対象は、「管理が可能」なものと、「管理が困難」なものに分けられます。

 経営が管理できるのは、第1に、新規顧客の獲得および既存顧客の維持と育成への投資です。第2に、その投資のために、どのようなプロダクトを開発(改良・強化)するのか、またそのプロダクトを提供するための組織・人材・教育・オペレーションです。青い点線部分には、およそ企業が実践している投資活動の全てが含まれます。青の矢印で示したように、これらを実践する結果として、売り上げを増やすことを狙っています。

 ですが多くの場合、左端と右端をつないでいる顧客自体の変化の関係は可視化されていません。通販系や直販系のビジネスでは、右から2つ目の「顧客行動」がある程度は可視化されていますが、多くの場合では中間の2つのブロックが可視化されておらず、ブラックボックスになっています。また、左端の経営対象はそれぞれの担当役員もしくは担当者にしか見えていない場合が多く、結果として、経営対象はそれぞれの部門や機能で管理され、いわゆる縦割り構造、部門や機能のサイロ化の課題を抱えているケースが多くなっています。

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