『顧客起点の経営』の著者で多くの企業経営者を支援する事業を手掛ける西口一希氏が、自らアドバイスを手掛け、「うまく行った」と評価する会社がある。2023年1月、夢真ビーネックスグループから名称を変更したオープンアップグループだ。同グループは機械やIT(情報技術)のエンジニア、さらに建設の現場監督の派遣事業を手掛ける。
この連載の第1回、第2回では、社長兼COO(最高執行責任者)の佐藤大央氏が中心となり、自社が企業に派遣する社員を「顧客」と捉えてフォロー体制を厚くして退職者を減らす一方、顧客企業への営業体制の改革に取り組んできたことを伝えてきた。第3回は、同グループが力を入れる、ITエンジニアの育成や、新規顧客の開拓がテーマだ。
企業トップとして自ら動き、組織を巻き込みながらスピード感のある改革に取り組む佐藤氏と、西口氏の対談をお送りする。(編集部)
IT未経験の人材を3カ月研修でエンジニアに育成
西口一希氏(以下、西口氏):前回までは、建設現場への派遣事業のお話が中心でした。オープンアップグループはIT人材の育成にも力を入れていますね。
佐藤大央氏(以下、佐藤氏):はい、IT分野の未経験の方を採用し、最長3カ月の研修を受けてもらっています。なぜ、そこまでやるかと言うと、本物の意味でのエンジニアとしてスタートできるからです。
ITエンジニアの場合、いわゆる保守運用の業務ゾーンと、設計構築の業務ゾーンがあります。両者の間には大きい谷があり、保守運用の業務の担当者は設計構築業務には簡単には行けません。けれど、保守運用にとどまると時給単価や給与が上がりにくいのが現実です。そこで我々は研修を用意し、設計や構築の業務が担えるエンジニアに育ててから派遣しています。特に、今、ニーズが高いクラウド系のAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)エンジニア、Azure(アジュール)エンジニア、セールスフォースエンジニアです。
西口氏:3カ月というのは、かなり手厚い研修ですね。
佐藤氏:これほど長期の研修は我々しかやっていませんでした。それでも当初は顧客である派遣先の会社から、「研修を受けても、未経験だった人が担当するのは無理じゃないか」と言われたこともあります。ただ、この分野の人材が足りないこともあり派遣社員として採用してくださる会社が出てきました。
派遣する人数を増やしていきたいと考えたのですが、正直なところ、我々としても、派遣した社員が現場でどのような仕事に携わっているのか、つかみ切れていませんでした。どのように営業すればいいか悩んでおり、西口さんに相談したのです。
受注増のカギは「成功事例の説明」に
西口氏:「受注を増やしたいなら、とにかく成功事例を集めて分析しましょう」とアドバイスしたと思います。その後、佐藤さんは派遣先の会社にヒアリングに行かれましたね。
佐藤氏:はい、派遣先のシステム会社や企業のIT部門に話を聞きに行きました。お客さんは「本当は経験者がほしいけど、募集しても集まらないんだよね」とおっしゃりながらも、「でも一定程度研修した人だったら、教えれば戦力化する。そういう人材を派遣してもらえるから、うちとしてもプロジェクトが受注できる」「彼らがいるから売り上げが上がる」と話してくださいました。
また我々が派遣するエンジニアはコミュニケーション能力が高いとか、3カ月研修を受けただけあって学習能力が高いなど、とても評価されていることが分かったのです。
もう1つ、我々の会社には3年間の派遣期間が終わったら、お客さんのところに転職してもいいという制度があるのですが、これがとても評価されていることも分かりました。でも、実際には、これらを、営業ではあまり押し出していませんでした。
西口氏:顧客の声を聞いて、自分たちの強みが分かったというわけですね。
佐藤氏:そうなんです。顧客企業からこんなに評価されていることを、ちゃんと説明できれば、新規開拓にも役立つはずだと気づきました。営業の提案資料を1から作り直し、営業のロールプレイも繰り返していくと、実際に商談の成功率が上がりました。
これまで、IT未経験者への研修の中身などを、営業の際にうまく説明できていなかったので、研修によって未経験の方が、どの程度のレベルに達するかといったことや、実際の現場でどのような業務を担っているかを、分かりやすく伝えるようにしました。人材の能力を説明できないところが一番のネックだったので、成功事例を豊富に挙げて、説明する形をつくったのです。
好成績を上げる営業社員の働きぶりを見ても、成功事例の説明が一番うまい人が最も売り上げていました。成功事例を説明できることが重要だとよく分かりました。


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