売上高を989億円(2021年6月期)から1486億円(22年6月期)へと5割も伸ばした人材派遣の企業がある。23年1月、夢真ビーネックスグループから名称を変更したオープンアップグループだ。同社は機械やIT(情報技術)のエンジニア、さらに建設の現場監督の派遣事業を手掛ける。

 実は、同社は、長年にわたり建設分野の社員の大量退社に頭を痛めてきた。そこで社長兼COO(最高執行責任者)の佐藤大央氏が、『顧客起点の経営』の著者で多くの企業経営者にアドバイスする西口一希氏の助言を受けて、2年ほど前から、社員を「顧客」として捉え直す戦略を実施。派遣先で働く社員のフォローを手厚くするなどの施策で、退職者を減らすことに成功した。

 企業のトップとして自ら動いて、組織を巻き込みながらスピード感のある改革に取り組む佐藤氏と、西口氏の対談をお送りする。

西口一希氏(以下、西口氏):オープンアップグループ(旧夢真ビーネックスグループ)さんに対しては、2年ほど前からアドバイザーの立場で月に1回、社長兼COOの佐藤さんと面談する形で経営のお手伝いをしていますが、会社がどんどん進化していることが分かります。

 面談には、佐藤さんがお1人で参加される。これは、大企業では非常に珍しいことです。そしてお話をし、佐藤さんご自身が納得して「必要」と判断したことは、組織を動員して即、実行する。PDCA(計画・実行・評価・改善)をご自身で引っ張っていますね。

 このため、気づきを得るラーニングスピードがとても速い印象です。うまくいく場合もいかない場合もありますが、それを全部認めてまた次に行く。その結果、企業を成長させている。私は1つの理想形だと思っています。

 まずは読者のために、御社の事業を説明していただけませんか?

佐藤大央氏(以下、佐藤氏):ありがとうございます。オープンアップグループというのは、23年1月に変更した社名で、それまでは夢真ビーネックスグループという社名でした。この会社は21年の4月、それぞれ人材派遣を手掛けてきたビーネックスグループと夢真ホールディングスが統合して誕生した持ち株会社です。傘下に複数の人材サービス会社を擁しています。我々の人材派遣事業は、正社員として雇用したうえで企業に派遣する、「常用型派遣」を手掛けていることが特徴です。

 当社グループの主力事業はエンジニアの派遣です。エンジニアといっても、大きく分けて3つの領域があり、1つめは機械電気系で、例えば大手自動車メーカー、半導体装置メーカーなど製造業にエンジニアを派遣しています。2つめがITエンジニアの派遣で、こちらはインフラ系が中心です。そして3つめが建設の現場監督を派遣するビジネスです。それぞれの分野が現在6000人ほどなので全体で2万人弱の社員がいます。

 いずれの分野も、未経験の方も含めて幅広く正社員として採用し、我々で教育をします。その後、派遣先である顧客企業の声も聞きながら人材を育成していくという事業を手掛けています。

 人材業界には、人材紹介という業種もあります。人材派遣と人材紹介は、どちらもマッチングビジネスですが、当グループなどの派遣会社は、求職者の方を社員として雇用しているところが特徴です。人材紹介は一度紹介すると、そこで業務が終了ですが、我々は社員として雇用し続け、派遣をしていくところが違うと思います。

佐藤大央(さとう・だいお)氏
佐藤大央(さとう・だいお)氏
オープンアップグループ社長兼COO 
大学卒業後、野村不動産を経て、2010年に父親が起業した夢真ホールディングスに入社。同社取締役、夢テクノロジー取締役を経て、15年に夢真ホールディングスの代表取締役、19年に夢テクノロジー代表取締役。21年4月に夢真ビーネックスグループ(現オープンアップグループ)代表取締役社長、同年7月からCOOを兼任。現在39歳。
西口一希(にしぐち・かずき)氏
西口一希(にしぐち・かずき)氏
Strategy Partners 代表  
P&G出身。ロート製薬執行役員マーケティング本部長、ロクシタンジャポン代表取締役社長、スマートニュース日米マーケティング担当執行役員を経て、現在はコンサルティングや投資活動を行う。2019年、顧客戦略のPDCA支援ツールの提供・導入支援を行うM-Forceを共同創業。著書に『顧客起点の経営』『顧客起点マーケティング』ほか。

長く働き続けてもらうために必要な施策は?

西口氏:その社員の方の退職が多いことを改善しようと、私にサポートの依頼をいただいたのですよね。

佐藤氏:年間で3000人規模の大量採用をしても、大量に退職してしまい、結果的に社員数が増えないという状況でした。それまでも、社員を「お客さん」と捉えるべきだという考えはありましたが、西口さんと話したことで、整理ができました。

 我々の顧客には2つのカテゴリーがあり、1つが求人を募集してくださる企業。もう1つが求職者、つまり、仕事を求める社員ですね。うちの企業はマッチングを手掛けているので、「人材を募集する側の企業」と「仕事を求める社員」、どちらもお客さんです。

西口氏:機械系のエンジニアとITエンジニアの業務はある程度、想像がつくと思うのですが、もう1つの建設技術者の派遣事業、このビジネスを簡単に説明していただけますか?

佐藤氏:名称としては、施工管理技士派遣というビジネスです。施工管理技士は技術者で、要は現場監督のことです。現場監督というと、すごく難しい職種だと思われがちですが、我々は未経験者を採用して育成し、現場監督として派遣する点が特徴です。

 建設業界では、東日本大震災以降、需要が非常に伸びたのですが、その前から高齢化による慢性的な人手不足で非常に苦しんでいました。

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