ゼネラリスト育成を重視してきた日本型雇用と一線を画し、職務を特定して社員を雇用する「ジョブ型」を導入する企業が増えている。社員の専門性を高め、成長意欲のある若手が自律的に育つといったメリットに加え、職務の明解な定義によって成果把握が容易な点が、新型コロナウイルス感染症の拡大で一気に広がったテレワークにも向いているとされる。

 しかし、雇用ジャーナリストとして長年、国内外の雇用の最前線を取材してきた海老原嗣生氏(中央大学大学院客員教授/ニッチモ代表取締役)は「ジョブ型」雇用への安易な期待に警鐘を鳴らす。4月にはジョブ型の課題や日本の雇用に関する議論に欠けている視点を徹底的に掘り下げた新刊『人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~』(日経BP)も発行した。

 「日経ビジネスLIVE」では2021年4月7日、14日に海老原氏が登壇するウェビナー「雇用のカリスマが斬る『間違いだらけのジョブ型雇用』」を開催した(モデレーターは、小林暢子・日経BP 総合研究所主席研究員/Human Capital Online発行人)。このウェビナーの内容について、アーカイブ動画とともに3回に分けてお届けする。

 第1回は日本企業と欧米企業の人事・雇用の根本的な違いと、そこから生まれる社会的影響について海老原氏が解説する。真のジョブ型とはどのようなものか。なぜ日本では解雇が難しいのか――。(構成:小林佳代)

※本シリーズは日経ビジネスLIVEで実施したウェビナー(2021年4月7日開催)の再配信です

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雇用のカリスマが斬る「間違いだらけのジョブ型雇用」(第1回)

「ジョブ型」という言葉は日本でしか使われていない

小林暢子・日経BP 総合研究所主席研究員/Human Capital Online発行人(以下、小林):大手企業を中心に今、日本でも「ジョブ型雇用」の導入が急速に進んでいます。このウェビナーでは、雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんに、ジョブ型の本質や問題点について伺っていきます。

 早速ですが、海老原さんは「日本型ジョブ型」という言葉に違和感があるそうですね。

海老原嗣生・雇用ジャーナリスト/中央大学大学院客員教授/ニッチモ代表取締役 (以下、海老原氏):ええ、言葉の定義からしておかしいです。「日本型ジョブ型」と表現すると、「ジョブ型」という言葉が世界中に広がっているような印象を受けますが、実は日本でしか使われていません。

 もともと、ジョブ型という言葉は労働政策研究・研修機構(JILPT)の濱口桂一郎さんが初めに使ったものです。日本の働き方と欧米の働き方の違いを一言で分かりやすく説明するために、それぞれ「メンバーシップ型」「ジョブ型」と表現しました。ジョブ型というのは欧米の働き方そのもの。それに日本型をつけたら「日本型欧米型」と矛盾する言葉になってしまいます。

<span class="fontBold">海老原嗣生(えびはら・つぐお)氏</span><br>ニッチモ代表取締役、政府労働政策審議会人材開発分科会委員、中央大学大学院戦略経営研究科客員教授<br>1964年東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計などに携わる。その後、リクルートワークス研究所にて雑誌「Works」編集長を務め、2008年にHRコンサルティング会社ニッチモを立ち上げる。雇用に関する著書多数。近著に『<a href="https://www.amazon.co.jp/dp/4296109278" target="_blank">人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~</a>』(日経BP)がある。
海老原嗣生(えびはら・つぐお)氏
ニッチモ代表取締役、政府労働政策審議会人材開発分科会委員、中央大学大学院戦略経営研究科客員教授
1964年東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計などに携わる。その後、リクルートワークス研究所にて雑誌「Works」編集長を務め、2008年にHRコンサルティング会社ニッチモを立ち上げる。雇用に関する著書多数。近著に『人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~』(日経BP)がある。

 ジョブ型がどうこう、ということを議論するのではなく、欧米と日本の人事・雇用では何が根本的に違うのか、その原理の話をしなくてはいけません。

小林:では、その根本的な違いは何でしょうか。

海老原氏:それを理解していただくため、まず日本人材マネジメント協会常任理事の中島豊さん(日本板硝子・人事部統括部長)の言葉を紹介したいと思います。

ポストに等級をつける、ということが日本ではどうしても理解できていません。DNAに刷り込まれているみたいに、人に等級をつけるという発想から抜け出ることができません。コペルニクス的な論理の転換ができないと無理なのでしょうか。

 中島さんは米国で経営学修士(MBA)を取得後、外資系の大手企業で役員を歴任した方です。米国の人事にも非常に詳しい。その方がこう嘆いている。「人」に等級をつけるか、「ポスト」に等級をつけるか。これこそ日本と欧米の大きな違いなのですが、日本人はその違いを分かっていないというのです。

 欧米企業が人を採用するとき、「オファーレター」を出します。そこには、ポストにつけられた職務ランクが「Grade5」といった具合に書いてあります。一方、日本の採用通知には本人につけられた職能等級が「6等級」などと書いてあります。

 職務ランクと職能ランク。全く別物ですが表記上は“務”と“能”の違いしかない。人事に詳しくない人はもちろん、詳しい人でも違いをよく分かっていません。

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