QQEが導入された2013年4月の「経済・物価情勢の展望」(いわゆる「展望レポート」)には、「見通し期間 (2013~15年度) の後半にかけて、(インフレ率は)『物価安定の目標』である2%程度に達する可能性が高いとみている」との記述があった。その後日銀は、目標達成時期を6回にわたり後ろへずらすことになるが、そのたびに新たな見込み時期が示され、いずれもその時点から1~2年の範囲内だった(表1参照)。
このうち、何らかの政策変更とともに見込み時期が改訂されたのは2回(第3回と第5回)で、これらは上に述べたITのあるべき姿と整合性がある。つまり、想定していた時期までの目標達成が難しくなったと判断したため、緩和策を強化した、その結果として新たな見込み時期は1~2年以内になった、と解することができる。一方、残り4回は見込み時期の改訂のみがなされており、単に日銀が見通しを誤ったと解釈できる。これは日銀にとって不面目ではあるが、ITの精神に反することではない (*3)。
より本質的な問題は、2018年4月に見込み時期の公表を停止したことである。ITの趣旨は人々のインフレ期待に働きかけることであり、そのために中銀は、目標値は1~2年で達成できる、それを担保する政策対応は現時点でなされているというメッセージを発信する必要がある。それ故の「見込み時期の公表」だったはずだが、なぜこれを停止したのか。これでは、岩田(2013)があれほどこき下ろした2012年の「物価安定の目途」に戻ってしまうわけで、IT精神の喪失以外の何ものでもない (*4)。
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