2016年9月、日銀は緩和の新たな政策枠組みを発表し、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)とオーバーシュート型コミットメントを導入した(写真:ロイター/アフロ)
2016年9月、日銀は緩和の新たな政策枠組みを発表し、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)とオーバーシュート型コミットメントを導入した(写真:ロイター/アフロ)

 リフレ派が主張したデフレ脱却メカニズムは、その核だった部分が量的・質的金融緩和(QQE)の下で実現しておらず、2%のインフレ目標も達成されていない。このことは、リフレ派の主張の妥当性に疑問を投げかける。

 しかし、安倍首相の登場、そしてそれに続くQQEの期間中に、実質金利の下落、円高修正、株高が生じ、実体経済にも一定の改善が見られたことは事実である。この点を踏まえると、事前の想定通りではなかったものの、QQEはやはり有効かつ有益だったと論じることは可能であり、実際にリフレ派はそう主張している。今回はこの主張の是非について検討する。

経済分析の2つのアプローチ

 経済分析には、大別して 記述的アプローチ、計量的アプローチの2つがある。いずれも経済データが意味するところを解き明かす作業だが、それぞれ得失がある。

 我々が日ごろ目にする経済分析の大半は、記述的アプローチによっている。QQEの文脈では、論者はその期間中に生じた経済変数の変化を図表などで示し、その変化が政策により生じたと考えられる理由を述べる。前回まで筆者は、QQEの期間中に(リフレ派の主張に反して)生じなかった経済変数の変化を示し、その理由や意味を説明してきたが、これもやはり記述的アプローチである。

 このアプローチの利点は、理解しやすく直感にアピールすることだが、深刻な限界もある。QQEの期間中に日本経済が改善したとしても、それが本当にQQEによりもたらされたものなのか。第5回で述べた通り、二変数の相関は必ずしも因果関係を意味しない。また仮に因果関係があったとして、量的にどの程度だったのか。QQEが投資、消費、所得等を押し上げたとしても、その大きさ次第で政策の意義は大きく異なる。

 政策効果の大きさを推計するためには、計量的なアプローチを用いる必要がある。厳密にいうと、このアプローチを使ってもマクロ変数間の因果関係を立証するのは容易ではなく、多くの場合、「因果関係があるとするとそれはどの程度か」を解明する作業になっている。推計によって得られる「程度」を統計的基準に照らし、十分に大きければ因果関係あり、小さければなしと結論することになる。

 しかし、推計の方法、モデルの構造、モデルに含める変数の選択、分析期間などによって得られる結果は往々にして異なる。そしていずれの推定がなされた場合にも、分析者が想定していない要因によって引き起こされた見せかけの因果(またはその不在)である可能性を排除できない。従って、計量的アプローチから得られた結論は、記述的アプローチの場合より信頼できるというわけでは必ずしもない。

 計量的アプローチはいわば専門家の領域であって、その詳細な説明はこの連載の範囲を超える。しかし、QQE(およびそれに先立つQE)を計量的に分析し、効果の有無を測定する試みは既に数多い。リフレ派はこれを引用し、または自らこれをして、量的緩和に効果があることは実証されていると主張している。

 このため、計量的アプローチを使った分析の結果をどう評価するかについて、筆者の考えを述べておく必要がある。技術的な話に興味のない読者は、以下をスキップしていただきたい。

計量的アプローチ - 時系列モデルの有効性

 筆者の知る限り、QE・QQEの計量的な効果測定は、後述する日本銀行(2016)を除いてすべて「時系列モデル」を使用している。時系列モデルの考え方は、経済変数間にどのような因果関係が存在するかを分析者が特定し、それをモデルに組み込んで推計することは難しいと割り切り、変数が時間とともにどのように影響し合っているかをいわば虚心坦懐(たんかい)に計測する。

続きを読む 2/5 VARによる政策効果推計には限界がある

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この記事はシリーズ「金融政策の混迷――リフレ派は何を訴え、何を残したか」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。