2013年3月5日、衆院議院運営委で所信を述べる、次期日銀副総裁候補の岩田規久男学習院大教授。「物価上昇率2%を必ず達成する、この達成責任を全面的に負うという立場に立つ必要がある」などと述べた。右は中曽宏日銀理事(肩書はいずれも当時)(写真:共同通信)
2013年3月5日、衆院議院運営委で所信を述べる、次期日銀副総裁候補の岩田規久男学習院大教授。「物価上昇率2%を必ず達成する、この達成責任を全面的に負うという立場に立つ必要がある」などと述べた。右は中曽宏日銀理事(肩書はいずれも当時)(写真:共同通信)

 マネーから実体経済への波及効果は、金融資本市場で成立する金利、株価、為替相場などの価格変数の動きに依存する。つまり、「マネー → 金利・資産価格」「金利・資産価格 → 実体経済」という2段階に分けて考えることができるのだが、このいずれについてもその大きさについて不確実性が存在する。また、前者の一部である「マネー → 金利」については、「流動性の罠(わな)」と呼ばれる障害があることが知られており、マネーの供給増を通じた金融緩和には限界があるという有力な見解があった。

 しかし、量的・質的金融緩和(QQE)の下では、日銀による資産の「爆買い」により、「マネー → 金利・資産価格」に関する不確実性や限界はあっさり乗り越えられてしまった。今回はこの点を説明するとともに、日銀が金融資本市場に大規模に介入し、市場価格を事実上支配することの是非について考える。

マネーから実体経済への波及経路

 リフレ派が提示した「マネーサプライから景気・物価へ」という政策波及の理論的根拠として、前回「ワルラス法則」を取り上げた。その際、マネーと実体経済の関係は複雑で、簡単な式や法則で割り切れるものではないことを指摘した(*注1)

(*注1) この他にもリフレ派は「貨幣数量説」に言及し、量的緩和の根拠としてきた(高橋[2010]、若田部[2012])。ここではその詳細に立ち入らないが、この説もそれだけでは「マネー→実体経済」の波及を説明するものではなく、政策論として十分説得的とは言えない。

 リフレ派とてこの点に気づいていないわけではなく、岩田(2000)は、マネーの増加が景気・物価に影響を与える経路として、以下の6つを指摘している。

(1) 金利低下:現預金を今まで以上に保有することになった企業・家計は、公社債等の他の金融資産へ投資をシフトし、その過程で様々な金利が低下する。

(2) 消費に対する資産効果:同様の投資シフトは株や不動産の価格を引き上げ、キャピタルゲインを生むが、これにより消費が刺激される。

(3)為替減価:投資シフトが外貨建て資産に向かえば、円売り・外貨買い需要を生み、為替が減価する。

(4)潜在的借り手の流動性の増加とキャッシュ・フロー改善:資金需要のある主体がより多くのマネーを持てば、借入に頼らず自己資金で投資や消費が可能。

(5)借り手のバランスシート改善:情報不足の下でも、借り手が十分な担保を提供すれば貸し手は貸し出しに応じる。マネーサプライの増加が資産価格全般を引き上げれば、借り手が持つ資産の担保価値が高まり、借り入れ能力が向上する。

(6)貸し手のバランスシート改善:貸し手が持つ資産の価値が高まると、貸し手のリスクテーク能力が上昇し、貸し出しに積極的になる。

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この記事はシリーズ「金融政策の混迷――リフレ派は何を訴え、何を残したか」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。