リフレ派は消費増税をインフレ期待に効かない犯人とした(写真は2013年8月、消費増税の影響を検証する経済財政諮問会議)(写真:共同通信)
リフレ派は消費増税をインフレ期待に効かない犯人とした(写真は2013年8月、消費増税の影響を検証する経済財政諮問会議)(写真:共同通信)

 中央銀行の負債が拡大することから生じる量的緩和の効果として、リフレ派は以下の3つを主張してきた。

(1)マネタリーベースの増加はマネーサプライを増やし、これが総需要を押し上げる。
(2)マネタリーベースの増加は円安を生む。
(3)マネタリーベースの増加は期待インフレ率を押し上げる。

 今回はこのうち(3)の妥当性をチェックする。

期待インフレ率の役割

 金融政策の効果を考えるうえで、人々が将来のインフレ率に対して抱く期待は極めて重要である。この点は、以下のいわゆる「フィッシャー方程式」から示すことができる。

名目金利 = 実質金利 + 期待インフレ率

 経済主体の意思決定を左右するのは名目金利(我々が普段目にする金利)ではなく、実質金利だというのが、経済学の考え方である。たとえ名目金利が高くても、借入期間中のインフレ率が高ければ、期限が到来したときに借り手が貸し手に支払う返済金の価値が実質的に下がっている。この点を考慮して、借り手の真の負担(貸し手が得る真の報酬)を示すのが実質金利である。

 借入期間中のインフレ率がどうなるかは貸借が合意される時点では分からないので、経済主体はおのおののインフレ期待に基づいて実質金利を把握し、意思決定する。現実に我々がこの通りの行動をしているわけではないかもしれないが、少なくとも経済合理性の観点からは、名目ではなく実質ベースで金利を考えるべきである。

 以上の点は名目金利の水準にかかわらず妥当するが、名目金利が下限に達した状況下では一段と重要性を増す。中銀の伝統的な金利政策は、あくまで名目金利のコントロールである。しかし、金利引き下げの余地が尽きてしまったとき、金利面でさらに何かやるとすれば、期待インフレ率への働きかけを試みるしかない。

 この戦略はインフレーション・ターゲティング(IT)の文脈で特に重要で、リフレ派がIT導入を強く求めてきた理由の1つである。ただ、ITについては第8回で別途詳しく論じるので、ここではマネタリーベースとインフレ期待の関係でリフレ派が主張したことに絞って検討する。

リフレ派の主張とその妥当性

 岩田(2012、13)は、2008~12年におけるマネタリーベースと期待インフレ率をプロットした図を示し、両者が強く相関している(マネタリーベースの増加とともに期待インフレ率が増大している)ことから、「中央銀行が物価安定目標の達成にコミットしたうえで、マネタリーベースを適正に供給すれば、民間の中期的予想インフレ率を目標インフレ率近辺に維持し、それによって、実際のインフレ率も目標水準に維持できる」と主張した(*注1)

(*注1)岩田(2012)はこの命題を「理論と事実で証明しよう」と述べ、その「証明」を提示している。数学を多用する経済学において「証明」という言葉の意味は重いが、以下で示す通り、岩田は単に「その当時の」経験的事実を示したにすぎない。

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この記事はシリーズ「金融政策の混迷――リフレ派は何を訴え、何を残したか」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。