金融政策の世界で20年以上前から続いてきた、リフレ派と反リフレ派の論争。この論争においてリフレ派は説得力ある議論や証拠を提示してきたとは言い難いのだが、現実の金融政策に対する彼らの影響力は徐々に増大し、最終的にはインフレーション・ターゲティング(以下IT)と量的・質的金融緩和(quantitative and qualitative easing、以下QQE)の導入、日銀執行部および政策委員会への参加によって、全面的な勝利を収めたといっていい。

 しかし、2013年にIT・QQEが導入された後の推移を見ると、日本経済はリフレ派が描いたシナリオ通りには動いてこなかった。日銀のバランスシートが異様なまでに拡大したにもかかわらず、インフレ目標は導入から8年たっても達成されておらず、経済成長も目に見えて上向いてはいない。「異次元緩和」は形を変えつつ続いているのに、バズーカにも例えられたこの政策はいまや国民から忘れられているように見える。これは一体、どういうことか。

 リフレ派が何を訴えてきたのかについて、多くの人の記憶は既に薄れているだろう。また、リフレ政策がどのような効果をもたらしたのか、そしてそれがどの程度、リフレ派のもともとの主張と合致あるいは乖離(かいり)しているのかも、なかなか分かりづらい。本連載では、リフレ派の言説をたどりつつこれらの点を解説し、彼らの功罪を明らかにしたい。

2013年4月、金融政策決定会合後、記者会見し新たな量的緩和について述べる黒田東彦総裁(写真:共同通信)
2013年4月、金融政策決定会合後、記者会見し新たな量的緩和について述べる黒田東彦総裁(写真:共同通信)

筆者の立場、考え方について

 議論に先立って、筆者の立場や考え方を明確にしておこう。筆者はリフレ政策の効果に対して、一貫して懐疑的である。その理由は本連載を通じて具体的に説明するが、ここではリフレ派の主張の中身ではなく、リフレ派の「姿勢」について感じるところを述べ、筆者が懐疑の念を抱くゆえんの一端を示しておきたい。

 リフレ派は過去20年間に実に多くの本や論文を公刊し、日銀批判を繰り広げてきた。筆者が本連載のためにレビューした本だけで30冊近くになるが、題名を見ただけで首をかしげたくなるものが少なくない。

 例えば、『日本銀行は信用できるか』、『日銀につぶされた日本経済』、『日本銀行 デフレの番人』といったあからさまに日銀を貶めるもの、『まずデフレをとめよ』、『リフレが日本経済を復活させる』、『リフレは正しい』、『日本を救ったリフレ派経済学』といった、自説の正当性に一点の疑いもないかのごとき印象を与えるもの、そして『本当の経済学がわかる本』、『日本経済のウソ』、『もうダマされないための経済学講義』といった、自分たちは正しい経済学や経済の仕組みを知っているが、日銀や反リフレ派は無知かペテン師だと言わんばかりのもの――。

 日銀の政策を抜本的に変えることがリフレ派の目的だったので、ときに日銀を貶めることもあろう。また自説の正当性を強調するのは、論者にとって自然な振る舞いである。従って、こうした題名、そしてそこから容易に想像できるであろう本の中身を、直ちに非難したり否定したりするつもりはない。

 特に、その後の展開に照らして「すべてリフレ派の言う通りだった」と納得できるなら、それに先立つ少々の行き過ぎは受け入れよう。しかしもし現実の経済が、リフレ政策の下で、リフレ派の言う通りにはならないことが明らかになったら? 彼らが繰り広げてきた 誹謗(ひぼう)中傷や断定は、翻って彼らを斬る刃(やいば)となる 。

リフレ政策は無効だったのか?

 筆者は既に「日本経済はリフレ派が描いたシナリオ通りには動いてこなかった 」と述べたが、このことは、リフレ政策が無効だったことは意味しない。リフレ派が敗北宣言を出す気配はなく、むしろ「QQEは実質的に成功した」と主張する向きもある。あらかじめ申し上げておくと、本連載において筆者はこうした主張の弱点を指摘するが、根底から覆せるとは思っていない。その理由は、筆者の知る限り、現時点の経済学は金融政策の効果を厳密に測定するすべを有していないからである(*注1)

(*注1)これに対してリフレ派は、「いや、そんなことはない、リフレ政策に効果があることは実証研究により示されている」と反論するだろう。この点については、連載9回でQQEの効果を論じる際にさらに説明する。
続きを読む 2/3 本連載における「リフレ派」 の定義

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この記事はシリーズ「金融政策の混迷――リフレ派は何を訴え、何を残したか」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。