正確な情報が開示される仕組みづくりが重要

マッチング理論で取引したい相手の情報を収集する時には、情報の正確性を把握する力に個人差が出るような気がしますがどうですか。

広野:小島さん、いかがでしょう。

小島氏:情報を取る能力に違いがあるかもしれないということですね。

広野:そうです。デューデリジェンス(資産査定)の能力というか、目利き力というか。

小島氏:それは結構問題だと思います。その辺についての理解はやっと進みつつあるところですね。メカニズムをしっかり理解し、きちんとプレーできる能力の違いも注目されています。我々は取引市場の構築を手掛けているわけですが、そこですごく難しいルールをつくってしまうと、それをうまくプレーできる人、できない人が生まれて対立が起きてしまうんです。

 先ほど例に出した学校の入試制度の場合、米国のボストンのような街だと、お金持ちの家庭も貧乏な家庭もあります。その中で、お金持ちはリソースが潤沢なので制度について詳しく調べることができて、申請書も上手に書くことができるので有利になる。一方、貧乏な家庭は不利になります。貧しい中でも頑張って子どもを良い学校に行かせようと思っても、行かせることができない家庭が出てきてしまうという問題が起きてしまいます。

 そういう場合にはどうするか。この手の研究は結構あり、一言で言うと、その制度自体が複雑なことが悪いので制度をシンプルにしようという方向がありますね。ボストンでは自分が希望する学校のランキングを正直に申告することが最善となるような制度をつくっています。

広野:コミナーズ准教授はいかがでしょうか。情報の収集をする際、正確性を把握する力が大事なのではないかという質問ですが、どう答えますか。以前、インタビューでキュレーション(選定・採用)の話をされていたのが印象的ですが、それにも関わるように思います。

コミナーズ氏:情報の正確性はとても重要です。利用者は取引市場で提示された情報を信じるしかありません。情報を正直に開示しようとしているかどうかが問題になります。

 ウーバーの例を出すなら、スマホを開いて配車をリクエストすると価格が表示されます。ウーバー側はなるべく価格を高くしたい。けれど高くすればするほど、利用者が「イエス」と言う可能性は低くなります。逆に利用者側はなるべく低い価格で抑えたい。何度も配車をリクエストしてはキャンセルし、価格をどんどん低くするよう仕向けることもあり得ます。

 理想的なプラットフォームは、利用者が最適な行動を取るインセンティブを与えるようにデザインされたものです。つまり、利用者が配車をリクエストしたら、市場価格が表示され、その価格を上回る価値があると思った場合に限り呼ぶというものです。ただ、そのようにデザインするのは難しいことです。

 再び中古車市場を例にお話しすると、売り手はクルマを実際よりも良いものに見せようとすることがあります。それは市場の失敗が起こる原因になります。買い手は良いクルマと悪いクルマを見分けることができず、取引自体を拒否するからです。解決のためには格付けや評価のシステムによって、正直な情報を提供するインセンティブを与える仕組みをデザインすることが必要です。

 おっしゃる通り、キュレーションも重要な要素ですね。ある程度は自分でもできます。良い中古車の売り手かどうかを判断できる情報があるかもしれません。スクリーニングをすることもできます。特定の売り手から中古車を買った複数の人が「不愉快な経験をした」と報告していれば、その売り手をプラットフォームから追い出すこともできます。

 市場から「追い出されるかもしれない」という不安は、不正をしないインセンティブになります。スクリーニング、モニタリング、どの取引が実行されるかを選ぶキュレーション、取引レベルでのインセンティブをミックスすることが、市場において正直で正しい行動を促進するベストな方法と言えます。

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この記事はシリーズ「インタビュー映像で読み解く世界の頭脳 スコット・コミナーズ氏」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。