
組織が成功を収めるためには、すぐれた指揮官の存在が不可欠になる。『孫子』では、指揮官の条件として、「智(ち)、信(しん)、仁(じん)、勇(ゆう)、厳(げん)」の五つを挙げる。ただ、どれも名指揮官には必要な要素だが、一人ですべてを兼ね備えるのは難しい面がある。
そこで古来、実践されてきたのが、自分の足りない資質を持つ人材とコンビを組むことだった。
ただし、自分が組むべき理想の相手や、部下にすべき優れた人材を見抜くのは、至難の技だ。三国志の英雄、諸葛孔明は、人を実地に試してその真の姿を探ることを推奨した。容姿や発言に頼った人物鑑定は失敗しやすいのだ。
また、指揮官には陥りやすい五つの落し穴があると『孫子』は指摘する。廉潔といった美徳さえも、極端に走ってしまえば欠点となる。バランスの良さこそ、指揮官には不可欠なのだ。
また、こうした指揮官が力を発揮できる組織として、『孫子』は、上司の命令に素直に従い、しかも外部の変化に柔軟に対応できる組織を理想とした。これは、軍事という面でいえば、古今共通する形になる。
この理想を実現するために『孫子』が考えたのが、部下に徹底的な危機感を持たせること、そして何より、上下が一体となれる「道」――つまり理念や目標を共有させることだった。
実は、『孫子』を始めとする「古典」とは、こういった理念や、戦略の面で、最も利用しやすい道具にほかならない。歴史の試練を経て、その強みと弱みが明白になっているからだ。指揮官やリーダーにとって、古典が必読といわれる理由はここにある。
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