第二巻では、『孫子』戦略のもう一方の要、「一発勝負」という着眼点を取り上げる。

 競争や争いごとといった局面では、失敗を学習の機会と考え、試行錯誤しながら成功を勝ち取って行くものと、失敗したら後がない「一発勝負」の状況に大きく分けられる。両者の戦略を混同してしまっては、勝利は覚束ない。

 『孫子』は「一発勝負」の状況を前提とし、戦いに踏み出すか否かの決断と、準備の周到さを重要視した。勝算がなければ戦わず、いざというときの備えを万全にしておけ、というのだ。

 そして、戦うか否かの決断に不可欠なのが、「彼を知り、己を知る」態度になる。ただし、古今の事例では、慢心や油断によって、己の実力や状況を見誤ることが多々起きている。

 この意味で、戦いの決断は、現場情報を握る者だけが下すことを『孫子』は重視し、また中国古典一般においては、諫言(かんげん)役を活用して、わが身の慢心を正すことを推奨している。

 さらに、戦争や大規模なビジネスの場合、事前にいくら緻密な戦略や計画を立てても、計画通りいかない場合が多い。この意味で、計画通りいきやすい状況と、いきにくい状況を峻別しなければ、戦いでは失敗を招きやすい。

 この象徴的な例が、第二次世界大戦後のアメリカの経営学。事前の計画や戦略を重視し過ぎて失敗したといわれる面がある。

 戦争の場合、大規模なビジネスと同じで、事前の情報収集により「やるかやらないか」を決め、後は臨機応変に勝ちを収めていくべきだ、という道筋を『孫子』は考えていた。

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