『孫子』の多くの戦略や戦術とは、たった二つの着眼点から導き出すことができる。第一巻では、その一つ、想定するライバルの数という問題を取り上げる。

 西欧戦略論のバイブルといわれる『戦争論』では、戦争を「決闘の拡大したもの」、つまり一対一の戦いだと指摘する。この状況では、相手の力の源の撃破が最優先事項だった。

 一方の『孫子』は、これとは正反対に、ライバル多数のなかでの勝ち残りを目指している。

 このために『孫子』は、「百戦百勝は善の善なるものに非(あら)ず。戦わずして人の兵を屈(くっ)するは善の善なるものなり」と指摘したのだ。ライバル多数状況では、自分がどろ沼の戦いに陥れば、第三者に漁夫の利をさらわれかねない。逆に、自分以外の二者が長期戦にはまってくれれば、圧倒的に美味しい状況となるからだ。

 この意味で、『孫子』は、敵の撃滅といった、どろ沼になりやすい目標を最優先とはせず、戦いを避けたり、敵の意図を封じ込めるといった「不敗」の状況を最初の目標とした。

 現代の戦略を考えるさいも、「最初から勝利を目指す」のか、「不敗をずっと守る」のか、「不敗から勝利に移行する」のかを鋭く峻別していくことが、個人や組織の成功には不可欠になってくる。

 さらに、もし勝利を目指したり、どうしても戦わざるを得ない場合、第三者に付け込まれないためにも、戦いは「短期決戦」を目指すべきだと『孫子』は考えていた。

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