戦国時代末期から江戸時代にかけて、近江国(現・滋賀県)から全国各地へ進出し、大きな商売を繰り広げた近江商人。「売り手よし 買い手よし 世間よし」の「三方よし」の理念を持ち、進出した地域と共存共栄することで商売の永続を図ってきた。

 その経営理念は、現代の経営者たちにどのように伝えられてきたのか。

 持続可能な経営の要諦を先人に学ぶ「江戸のSDGs」、今回からは近江商人の流れをくむ現代の経営者が、どのように彼らの理念を育んできたかを探る。創業1867年(慶応3年)、京都に本社を置く専門商社として、きもの、宝石、ブライダルなど幅広い事業を手掛けるツカキグループの現当主、6代目塚本喜左衛門氏に、本家の屋敷が残る滋賀県・五個荘(東近江市)で聞いた。

ここ、滋賀県の五個荘(ごかしょう)は、塚本喜左衛門社長のツカキグループはもちろん、外与(とのよ)さんの外村与左衛門家、戦前に大陸で三中井百貨店をいくつも展開した中江勝次郎家と、近江八幡や日野と並ぶ、代表的な近江商人の輩出地です。しかし、とても静かなところですね。コロナ禍で観光客が少ないという理由もあるのでしょうが……。

<span class="fontBold">塚本喜左衛門(つかもと・きざえもん)</span><br> 1948年生まれ。71年、大阪市立大学経済学部卒。75年、ツカキを設立し、社長に就任。84年、塚喜商事の社長に就任(6代目喜左衛門襲名)。2019年、「西陣織あさぎ美術館」館長に就任。ほか、NPO三方よし研究所理事長、京都・国登録文化財所有者の会会長なども務める(写真:菅野勝男)
塚本喜左衛門(つかもと・きざえもん)
1948年生まれ。71年、大阪市立大学経済学部卒。75年、ツカキを設立し、社長に就任。84年、塚喜商事の社長に就任(6代目喜左衛門襲名)。2019年、「西陣織あさぎ美術館」館長に就任。ほか、NPO三方よし研究所理事長、京都・国登録文化財所有者の会会長なども務める(写真:菅野勝男)

塚本喜左衛門氏(以下、塚本氏):近江商人の研究者で、同志社大学名誉教授の末永國紀先生は、かつて五個荘のことを「閑(しず)かにして雅(みやび)やか」な場所、「閑雅(かんが)」と表現されました。公開されている近江商人屋敷や近江商人博物館という観光客に向けた施設もあり、あまり閑(ひま)だと困ってしまうのですけれど(笑)。

 コロナ禍の前、中国人経営者の訪日研修ツアーというのが盛んで、私たちの本社がある京都によくお越しになりました。「百年経営」や「事業承継」など歴史ある日本企業に学ぶという趣旨の研修が多かったようです。その方々に「こういう、近江商人のふるさとがありますよ」と話すと来ていただけることが多く、ご案内すると口をそろえて「ここは教育機関ですか?」とおっしゃるのです。

 私たちは「え?」という感じで、ただの集落でふるさとだと思っているのですが、彼らの感想を聞くと確かに、近江商人屋敷の中には家訓があったり、道端には先人に感謝する石碑があったりして、そういう見方も成り立つのかもしれないなと思います。

先入観なしに五個荘に来た人のほうが、「ああ、子供のころからそうやって商人を育てていく環境があるんだ」と理解しやすいのかもしれませんね。塚本社長ご自身もこちらで子供時代を過ごされました。昭和30年代くらいまでいらしたと思いますが、「教わった」「育てられた」と感じることはありますか?

塚本氏:小学校6年生、12歳まで五個荘にいました。子供のしつけは祖父母の役割でしたね。学校から帰って、先祖の写真が飾ってある仏間に行くと、昔話をよくしてくれました。

 江戸時代末期の1867年(慶応3年)に創業した曽祖父・3代目喜左衛門の写真を指さして、「このじいさんは、こういう苦労をして商売で成功した」「こう油断して失敗した」と、こと細かに、特に失敗した話のほうを多く聞かされました。

 父は仕事で主に京都にいましたから、子供には一生懸命働いている背中を見せる役割です。たまに五個荘に帰ってくると「今、東京ではこうだ。京都ではこうだ」と、商売の最前線の風をびゅーびゅー入れてくれました。「どこそこが倒産した」「おう、そうか」と、大人たちの間では商売の話が普通にされていましたね。

 裁縫をしている祖母の後ろには、「三代の図」の掛け軸がかかっています。初代が大汗をかきながら働いて財を成し、2代目は仕事をせず、楽しみごとにうつつを抜かしている。3代目はその結果、家業が破綻して路頭に迷う、というものです。毎日それを見て、父の背中を見て、感じるものはありましたね。

塚本家の居間にある「三代の図(長者三代鑑)」。どんなに初代が懸命に働いて財を成しても(下)、2代目(後継ぎ)が趣味にうつつを抜かせば(中)、3代目(子孫)は路頭に迷う(上)、という教訓を表している(塚本喜左衛門氏提供)
塚本家の居間にある「三代の図(長者三代鑑)」。どんなに初代が懸命に働いて財を成しても(下)、2代目(後継ぎ)が趣味にうつつを抜かせば(中)、3代目(子孫)は路頭に迷う(上)、という教訓を表している(塚本喜左衛門氏提供)
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