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 ノーベル賞受賞の学者など“世界の頭脳”の理論を、その要諦を熟知する専門家による解説で学ぶシリーズ。第3弾は2017年にノーベル経済学賞を受賞した米シカゴ大学経営大学院のリチャード・セイラー教授の行動経済学を取り上げる。

 解説は元世界銀行のシニアエコノミストで、セイラー教授の孫弟子でもある行動経済学者の田中知美氏。セイラー教授へのインタビュー映像を使い、クイズを織り交ぜながら、行動経済学をビジネスに生かす視座を学ぶ。

 第2回はウェビナーの前半をテキストとクイズ映像で配信する。伝統的な経済学と行動経済学は何が違うのか。投資家はなぜ不合理な行動を取ってしまうのか。

※本シリーズは、2020年11月19日にライブ配信したウェビナーを再編集したものです
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第3回セイラー教授(3)「ナッジ」って何? 人々の行動を変えるスゴイ理論

広野彩子(日経ビジネス副編集長、以下広野):シリーズ「インタビュー映像で読み解く世界の頭脳」、第3弾は2017年にノーベル経済学賞を受賞した米シカゴ大学経営大学院のリチャード・セイラー教授へのインタビュー映像を使ったセッションをお送りします。セイラー教授の行動経済学に詳しいゲストに解説をいただきます。今回のゲストは元世界銀行のシニアエコノミストで、セイラー教授の孫弟子でもある行動経済学者の田中知美さんです。

 田中さん、早速ですが、経済学の中で行動経済学とはどのような学問か、セイラー教授はどのような業績でノーベル経済学賞を受賞したのか、解説をお願いします。

田中知美(行動経済学者、以下、田中氏):行動経済学とは、心理学的に観察された事実を取り入れていく経済学の研究分野を言います。一般には、2002年に「プロスペクト理論※1」でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏が行動経済学の創始者と思われています。しかし、セイラー教授は『行動経済学の逆襲』(早川書房)という本の中で、カーネマン氏よりもハーバート・サイモン氏が先にこの分野を手掛けていると書いています。

2017年ノーベル賞授賞式でのリチャード・セイラー教授(左)(写真:AFP/アフロ)

 サイモン氏は人間が持つ情報は完全ではなく、認知能力にも限界があるという「限定合理性」の概念を打ち出しました。これは行動経済学のベーシックなコンセプトであり、最初の大きな業績と言えます。ただ、サイモン氏は行動経済学の理論化はしていません。経済学の中で行動経済学という1つの分野を確立するには至りませんでした。

 2002年にカーネマン氏がプロスペクト理論でノーベル経済学賞を取ります。プロスペクト理論というのは、不確実性の下における意思決定のモデルです。ここで初めて理論モデルが出てきた形です。カーネマン氏も、一緒に受賞したエイモス・トベルスキー氏も心理学者です。心理学の教授から経済学の理論モデルが出てノーベル経済学賞を受賞するというのは極めて画期的なことで、当時、私も衝撃を受けました。

 また、一緒に受賞したバーノン・スミス氏は実験経済学という手法を確立した人物です。行動経済学の理論はあまり使わず、伝統的な経済学で実証実験を行っていました。この3人が行動経済学というカテゴリーでノーベル賞を受賞したというのは非常に興味深いことだと思います。

 2013年には行動ファイナンスで功績のあった米エール大学経済学部教授のロバート・シラー氏がノーベル経済学賞を受賞します。シラー氏は不動産バブルを予測したことで大変有名です。投資家の心理が一方向にぐっと傾くと不動産バブルが起きるということを研究した方です。

 そして2017年にノーベル経済学賞を受賞したのがセイラー教授です。セイラー教授は行動経済学の様々な分野の研究をしていますが、最後に行き着いたのが「ナッジ※2」。ナッジの理論を行動変容に結びつけたことがセイラー教授の最も大きな業績だと思います。

(編集部注)
※1 プロスペクト理論:不確実性の下における意思決定のモデルの1つ。「利益を得る場面では確実に手に入れることを優先し、損失が出そうな場面では最大限に回避することを優先する」行動心理を表す。

※2 ナッジ:直訳は「ひじで軽くつつく」といった意味。ちょっとしたきっかけを与えて人々の行動や振る舞いを変えること。禁止したり強制したりするのではなく、望ましい選択をするように誘導する。
続きを読む 2/3 行動経済学が前提とするのは“ダメ人間”

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