<span class="fontBold">「日経ビジネスLIVE」とは:</span><br>「読むだけではなく、体感する日経ビジネス」をコンセプトに、記事だけではなくオンライン/オフラインのイベントなどが連動するプロジェクト
「日経ビジネスLIVE」とは:
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 ノーベル賞を受賞した学者など“世界の頭脳”の理論を、その要諦を熟知する専門家による解説で学ぶシリーズ。第2弾は今年ノーベル経済学賞を受賞した米スタンフォード大学のポール・ミルグロム教授の理論を取り上げる。解説は慶応義塾大学経済学部教授の坂井豊貴氏。2014年のミルグロム教授へのインタビュー映像を使い、クイズ形式でオークション理論をビジネスに生かす視座を学ぶ。

 第2回はウェビナーの前半をテキストとクイズ映像で配信する。ミルグロム教授が経済学に残した功績とは何か。実務に活用された「周波数オークション」とはどんな仕組みか。『オークション理論」のすごさを徹底解説。

※本シリーズは、2020年11月6日にライブ配信したウェビナーを再編集したものです
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第3回 ミルグロム教授(3)ノーベル賞理論で複雑な売買がよりもうかる

広野彩子(日経ビジネス副編集長、以下、広野):シリーズ「インタビューで読み解く世界の頭脳」、第2弾は今年のノーベル経済学賞を受賞した米スタンフォード大学のポール・ミルグロム教授への2014年のインタビュー映像を使った緊急セッションをお送りします。ノーベル賞授賞理由となったオークション理論について、慶応義塾大学経済学部の坂井豊貴教授の解説で学んでいただきます。

坂井豊貴・慶応義塾大学経済学部教授(以下、坂井氏):よろしくお願いします。僕は慶応義塾大学でオークション方式、投票方式などメカニズムデザインという分野を教え、研究しています。一方でデューデリ&ディール(東京・千代田)という不動産コンサルティング会社のチーフエコノミストとして、オークション理論を不動産の売却に活用しています。ミルグロムがつくったオークション理論や証明した定理を現実で使っているので、彼がいかに偉大か、よく分かっているつもりです。

 今日はデューデリ&ディールで僕と一緒に仕事をしている今井誠取締役にも同席してもらい、ビジネスにいかにオークション理論を生かしているかという話をしていこうと思います。

<span class="fontBold">坂井豊貴(さかい・とよたか)氏</span><br>慶応義塾大学経済学部教授。デューデリ&ディール(東京・千代田)チーフエコノミスト
坂井豊貴(さかい・とよたか)氏
慶応義塾大学経済学部教授。デューデリ&ディール(東京・千代田)チーフエコノミスト

広野:最前線で実際に活用しているお話が聞けるということですね。まずは今年のノーベル経済学賞を受賞したオークション理論について解説をお願いします。

坂井氏:今年のノーベル経済学賞はオークション理論での功績によって、スタンフォード大学のミルグロム教授とロバート・ウィルソン教授が受賞しました。実はオークション理論をつくったのはミルグロム教授ではなくウィリアム・ビックリーという人で、彼も1996年にノーベル経済学賞を受賞しています。ただ、授賞理由はオークション理論をつくったことではなく、非対称情報の下でのインセンティブについて理論をつくったこと。オークション理論そのものの受賞は今年が初めてです。

ノーベル賞を受賞したポール・ミルグロム教授(左)とロバート・ウィルソン教授(写真:Nobel Prize Outreach. Photo:Elena Zhukov)
ノーベル賞を受賞したポール・ミルグロム教授(左)とロバート・ウィルソン教授(写真:Nobel Prize Outreach. Photo:Elena Zhukov)

広野:坂井さんは日本で、もしかしたら世界で、最もノーベル経済学賞に詳しい経済学者と伺いましたが。

ミルグロム教授は経済学にパラダイムチェンジを起こした

坂井氏:ええ、実はこの4年ぐらい、ノーベル経済学賞受賞者の予想をしていまして、それがわりと当たっているんです。せっかくですから、ここで予想のコツを披露したいと思います。

 予想を当てようとする時には、「誰がもらうべきか」という規範は関係ありません。「誰がもらってほしいか」という希望も関係ない。希望的観測は身を滅ぼすだけです。「誰がもらうか」だけを考える。株や仮想通貨に投資するときと同じです。

 賞というのは選ぶ側がいます。選考委員の気持ちになって考えるのが大事です。今年、僕は新任の選考委員だったトミー・アンダーソン氏に注目しました。アンダーソン氏を“イタコ寄せ”して彼の気持ちを探ってみたら「ミルグロムに受賞させたい」と思っていた。

 他の選考委員をイタコ寄せしたら「新任のアンダーソンに決めさせてあげたい」と思っていた。三段論法により、今年はミルグロムが受賞するという予想を立て、当てたわけです。

 では、なぜアンダーソン氏はミルグロム氏を推したのでしょうか。アンダーソン氏はマッチング理論の研究者です。マッチング理論というのはオークション理論と兄弟のようなもの。加えて彼は「腎移植マッチング」をスウェーデンで推進する実務に関わっています。実務に関わると、ミルグロム氏の偉大さが心底分かります。

 理論的な成果というのは山ほどあります。その中で実際に役立つ理論、スジの良い解概念というのは非常に少ない。ミルグロムの理論は本当にスジがいいんです。役に立つ定理を証明してくれています。

 それから、ミルグロム氏は「大きい問題」「一般理論」で天下国家を語るのではなく、「小さな問題」「個別具体論」を社会の中で解決するという経済学のアプローチを確立した人でもあります。

 今、このウェビナーを聞いてくださっている若い人の中には、「でも経済学って小さい問題を扱っているよね」と思った方がいるかもしれません。実はそれは20年前には全く当たり前ではなかったんです。今では当たり前のアプローチを1990年代に確立し、そういう潮流をつくり上げたのがミルグロム氏なのです。

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