「日経ビジネスLIVE」とは:「読むだけではなく、体感する日経ビジネス」をコンセプトに、記事だけではなくオンライン/オフラインのイベントなどが連動するプロジェクト

 コロナ時代に求められる新たな人づくりとその具体的な方法とは……。2020年11月16日と11月30日に開催したウェビナーシリーズ「日経ビジネスLIVE あの経営者が語る 人づくりとコロナからの再興」をアーカイブ配信する。

 第1回は永守学園理事長、日本電産会長CEOである永守重信氏とMS&ADインシュアランスグループホールディングス会長である柄澤康喜氏の対談の前編(全2回)をお送りする。テーマは「コロナ禍でも革新生む、新時代の人づくり」。永守氏が多額の私財を投じて“先端科学”を実践的に学べる場として生まれ変わらせた京都先端科学大学(KUAS)を会場に、新たな人材育成の道筋について語り合った。対談の全体を収録した動画も掲載している(2ページ目、有料会員限定)。

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田村賢司・日経ビジネス編集委員(以下、田村):MS&ADインシュアランスグループホールディングスでは、京都先端科学大学にデジタル人材育成のための社員研修プログラムを創設されました。なぜこうしたプログラムを設けたのでしょうか。

DXとダイバーシティー、成長に不可欠

柄澤康喜・MS&ADインシュアランスグループホールディングス会長(以下、柄澤氏):私どものグループは、SDGsを道しるべとして社会の課題を解決し、社会との共通価値を創造していくCSV経営を進めています。このSDGsのターゲットの実現、あるいは社会的課題の解決のためにはイノベーションが不可欠です。このイノベーションを起こす大きなベースとなるのが、デジタルトランスフォーメーション(DX)とダイバーシティー、多様な人材の力だと思っています。

柄澤康喜(からさわ・やすよし)氏
MS&ADインシュアランスグループホールディングス会長

1950年生まれ。75年京都大学経済学部卒業後、住友海上火災保険(現 三井住友海上火災保険)に入社。執行役員経営企画部長、常務、専務を経て、2010年取締役社長に就任。14年MS&ADインシュアランスグループホールディングス取締役社長を経て、20年6月から現職。16年6月より経団連「経済財政委員会」委員長、17年5月より同「女性の活躍推進委員会(現ダイバーシティ推進委員会)」委員長(写真:太田未来子)

 DXの推進によって業務の効率化、生産性向上、企業価値の向上を図っていく。例えば、防災面で企業の抱えるリスクを可視化・最適化し、課題解決を図る新サービス「リステック(RisTech)」の提供を始めました。あるいは、大規模な自然災害時のドローンやAIを活用した一刻も早い保険金支払いとか、テレマティクス技術を活用したテレマティクス損害保険サービスなどを展開しています。

 これらDXの推進のためには、何よりデジタルを使いこなせる人材が必要です。(IoTに詳しい坂村健氏が学部長を務める)東洋大学の情報連携学部と提携してデータサイエンティスト育成、あるいはビジネスデザインなどでの研究を重ねておりました。また滋賀大学とも連携してデータサイエンティストの育成なども進めています。

 このたび、KUASとの提携によって、最新鋭の研究設備を使い、オンライン型の研修で今年度約150人の受講を予定しております。バーチャルリアリティーでのドローン動画、あるいはウエアラブル端末を利用したデータの収集・利活用の学習をしています。永守さんのリードする最先端の大学ですので、私どものデータ人材の実践的育成に関して期待しています。

田村:KUASでは、永守さんがご自身の大学改革に対する思いを注ぎ込んで、新しい大学づくりを進めています。どういうお考えで、今どういうことをしているのでしょうか。

大学改革で世の中が欲する人材を育成

永守重信・日本電産会長CEO(以下、永守氏):私が日本電産を1973年に創業してから、ずっと一貫して人材不足なんですね。もちろん最初のころは零細企業ですから、そんなに人は集まりませんが、だんだん会社が大きくなるに従って、いろいろな大学から人材が集まってきました。それでざっと今日まで47年間、大学と大学院修了者の新卒者を1万人近く採用してきております。

永守重信(ながもり・しげのぶ)氏
学校法人永守学園理事長、日本電産会長CEO

1944年生まれ。67年職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)電気科卒。ティアックなどを経て73年に日本電産を創業、社長に就任。経営不振企業のM&A(合併・買収)などを通じて世界一のモーターメーカーに育てた。2014年から会長兼務。18年6月から会長CEOに。私財100億円余りを投じて京都学園大学(現・京都先端科学大学)の改革に乗り出し、同大学を運営する京都学園(現・永守学園)理事長に就任した(写真:太田未来子)

 そういう卒業者などを見ておりますと、我々の期待に応えてくれるかどうか不安な学生が多いと感じました。大学を卒業してきても、英語はしゃべれない。それから専門性を持った者も少ないと。そして礼儀作法なんかもできない。

 我々企業は、社会、マーケットが欲しいものを研究して開発しないことには買っていただけません。買っていただけないということは企業が成り立たないわけです。けれども、今の大学は学生を採用する側にいる我々が欲しい人材を出してこないんですよ。

 若い人たちは中学校、あるいは場合によっては小学校からもう受験勉強ばかりやって、遊ぶ暇もない。受験勉強という、試験に受かるためのテクニックを学びに行っているわけですね。そして高等学校のときまでそういう生活を送って、やっと大学に入ったと思ったら、もう疲れきってあとは遊んでしまう。

 日本の現在の若者には、理想とか夢とか希望がなくなっている人が多い。閉塞感が漂って、ゼロとは言いませんが「自分が将来何になりたい」とか「どう自分の夢をかなえるか」と考えている人たちが非常に少なくなってきている。

 そういう批判をしていてもしょうがないですから、「じゃあ、自分で大学をやってみるか」と思ったわけです。社会が求めている人材がたくさん受け入れられるようにと考えて、2年半前にこの大学に関与し始めました。

 まず今どき英語をしゃべるなんていうのは、もういわば運転免許みたいなものですよ。ところが京大や東大とか一流大学を出てきてもほとんど英語がしゃべれない。専門科目がちゃんと分かっているかというと、それもない。

 私は世界45の国と地域で企業経営をやっていますけど、アメリカなんか行きますと新卒者が入ってきたら、もう即戦力になるんですよ。例えばモーターの技術者として採用したら即モーターの設計ができるとかね、全然違うんです、日本と。

 日本はもう本当に何もできない。「いったい何を学んできたのか」という学生がどんどん出てくる。これをやはり変えないといけない。偏差値が高いから、ブランド大学を出たからといっても、企業に入って来て本当にいいものを開発してくれて、素晴らしい働きをしてくれるのかというと、まあ、例外もおりますけど、ほとんど関係がないことが分かったので、この大学でそういう人材を育てようと。

 私は現代の日本の大学教育は間違っていると考えています。教育の「教」はやったけど、「育」、すなわち育てることはできていない。何か教えているらしいんですけれども、育てる、人間を育てるという、世の中が欲する人材を出したり、若者が夢を持てたりするような教育を与えていないんですよ。だから今必死になって大学改革をやっている途中です。

課題解決型の人材育成、産学の連携が鍵

田村:柄澤さん、日本では「大学生はとにかくまっさらでいい、うちに来たら企業の中で教育するんだから、ある程度のレベルの人間を入れてくれさえすればそれでいい」という企業側の考え方が長く続いたと思います。最近はそのあたりは変わってきているのでしょうか。

柄澤氏:日本は生産性で劣っている。これを補っていくのはやっぱり人材と思っておりまして、企業でも育成していくんですけれども、やはり産学が連携して進めていく必要がある。先ほど永守さんが採用側で(問題を)感じたと言われましたけれども、(人材の)需要と供給双方でコミュニケーションをして、どのような教育が必要なのか、リカレント教育も含めて、いっそう強化していく必要があるのではないかと思います。

 いま日本企業はジョブ型の導入を進めています。教育の重要性というのはジョブ型を取り入れていく過程の中でも非常に重要になってくる。

 また偏差値についても言われましたが、やっぱり感じるのは、サブジェクト・ベースド・ラーニング(SBL)、暗記型の学生を日本は生み出し過ぎたなと。そういう意味では、プロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)、いわゆる問題解決をしていく学生を育てていかなければいけない。そういう意味では、産学が緊密な連携を取って進めていく必要があると思っております。

 いろいろな大学で改革をやっておられるんですけれども、やっぱり既存の大学からのアプローチではなかなか限界がある。思い切ってこういう理想の大学という形をつくって、そこからバックキャスティングして進めていくのは、非常な力というかエネルギーを感じますので、期待しているところです。

田村:柄澤会長からもお話があった産学の連携について、永守さんはどんなふうにお考えですか。

座学から実習など実践的な教育へ

永守氏:まず、いまだに大学というのは象牙の塔なんだという考え方を持っている先生は多いですね。今の大学教育はどんなことをやっているんだろうと思って京都学園大学(校名を変更して現・京都先端科学大学)に関わる前に見て回ったんですよ。

 ところがね、もう何を言っているのか分からん先生がいっぱいいる。それで学生は寝ている。私もいっぺん話を聞いてみたら、10分で気絶するような教育をやっているんですよ。まず先生方も変わらないといかんと思いますね。大学院生で博士課程か何かなら話は別ですけど、一般の学部生にあんな話をして分かるのかなと。

 だいたい工学部に入ってきて2年間教養課程とかやるからまずいんですよ。「工学部に入ったのにこんなつまらん授業ばっかりやるのか」と。そこでもう意欲を失ってしまう。だから1年生のときから、電気工学、モーターを学びに来たんだから、モーターについての実習を行っています。

 そもそも、1時間半の講義を座学だけで教えるなんていう時代じゃないですよ。もう今はせいぜい座学は半分。半分は動画を見せたり、工場見学に行ったり、そういうことをどんどんやって、それで自分の意見をちゃんと述べられる人材を(生み)出さないと。詰め込みの教育をいくらやってもね、社会に出ても役に立たないんですよ。

続きを読む 2/2 教員を世界から公募、半数は外国人

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