「日経ビジネスLIVE」とは:「読むだけではなく、体感する日経ビジネス」をコンセプトに、記事だけではなくオンライン/オフラインのイベントなどが連動するプロジェクト

 アフターコロナ時代に求められる人づくりとは……。2020年11月16日と11月30日に開催したウェビナーシリーズ「日経ビジネスLIVE あの経営者が語る 人づくりとコロナからの再興」をアーカイブ配信する。

 第4回は「AI後進国を脱する3つのロードマップ」をテーマに、データサイエンティスト育成などを推進するデータサイエンティスト協会代表理事の草野隆史氏、2020年のディープラーニングビジネス活用アワードで大賞を受賞した日立造船・機械事業本部開発センター主任技師の篠田薫氏、そして高等専門学校を対象にしたディープラーニングコンテストで最優秀賞を受賞した国立東京工業高等専門学校情報工学科の板橋竜太氏が参加。日本がAI後進国から脱却するために必要な条件などを議論した。議論の全体を収録した動画も公開している(2ページ目、有料会員限定)。

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編集部注:本記事は、2020年11月16日に実施したオンライン鼎談の発言を基に編集したものです。

安倍俊廣・日経ビジネス編集委員(以下、安倍):本日のテーマは「AI後進国を脱する3つのロードマップ」です。日本はAI活用などで、米国はもちろん中国にも遅れているといわれますが、実際のビジネス現場におけるAI活用はどのような状況でしょう。

草野隆史・データサイエンティスト協会代表理事(以下、草野氏):日本がどれだけ遅れているのかを具体的に示すのは、意外と難しいのですが、さまざまな調査データを見ても、日本のAI活用は先進国の中で突出して低い位置、レベルにあります。一方でAIなどの高度人材に対するニーズは日本でも高まっており、今後最大で80万人ほど足りなくなるという調査があります。

 私が代表理事を務めるデータサイエンティスト協会が2019年に実施した調査でも、データサイエンティストが在籍している会社は、全体の3分の1以下。データサイエンティストを採用しようと思っても採用できなかった会社が6割と、全体の過半になっているというデータがあります。

草野隆史(くさの・たかふみ)氏
データサイエンティスト協会代表理事、ブレインパッド社長
1997年、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。米サン・マイクロシステムズなどを経て、2004年3月ブレインパッドを設立、代表取締役社長に就任。2011年9月、東証マザーズに上場。2013年、東京証券取引所市場第一部に市場変更。2015年9月、代表取締役会長に就任。2019年7月より代表取締役社長を務める。現在、データサイエンティスト協会代表理事、日本ディープラーニング協会理事、東京大学エクステンション社外取締役を務めるほか、さまざまな省庁の委員会活動にも協力。経済同友会会員。

 こうした状況に対して国が動き、19年に「AI戦略2019」が制定されました。これはAIに関連する教育改革、研究開発、社会実装などの政策パッケージを策定したものです。中でも教育改革では、文系理系を問わず、すべての大学生や高校生、高専生などに初級レベルのAIリテラシーを身に付けてもらう仕組みが盛り込まれました。これはAI後進国からの脱却に貢献するものではないかと考えています。

安倍:篠田さん。日立造船はエンジニアリングの会社で、社内には多くのエンジニアがいますね。AI活用の取り組みはいかがですか。

篠田薫・日立造船機械事業本部開発センター主任技師(以下、篠田氏):いわゆるものづくりだけでなく、ディープラーニングなど先進的なテクノロジーのビジネス応用にも積極的に取り組んでいます。20年には当社が開発した「AI超音波探傷検査システム」が「第2回ディープラーニングビジネス活用アワード」で大賞を受賞しました。

篠田薫(しのだ・かおる)氏
日立造船 機械事業本部 開発センター主任技師
国立有明工業高等専門学校機械工学科卒。石油精製・石油化学向けプロセス機器の製造における溶接管理技術者として、溶接設計や金属材料評価などに携わる。JIS/ISO WES溶接管理技術者特別級資格取得。化学プラント熱交換器の取替・延命化工事のスーパーバイザーとして、サウジアラビア、インド、パキスタンなどの現地工事に従事。2016年より、事業企画・技術開発本部技術研究所有明研究室へ転籍。2020年「第2回ディープラーニングビジネス活用アワード」において大賞を受賞した「AI超音波探傷検査システム」の開発推進責任者を務める。

 これは化学プラントなどで稼働している熱交換器の検査をするシステムです。熱交換器には無数の管が接続され、溶接で接合されている「管端溶接部」に目に見えない亀裂が生じることがあります。それを超音波を出す「探触子」と呼ぶ部品で検査して、欠陥を素早く検出するものです。

 検査データをAIで解析すれば検査翌日には顧客企業に検査結果を提供できます。顧客企業は検査の待ち時間を大幅に短縮でき、欠陥が見つかったら、すぐに次の行動計画を立てられます。

AIがこれまでの常識を破壊

安倍:非破壊検査はこれまで、人間が実施するのが常識でした。ディープラーニングの活用で、その常識を壊したのですね。

篠田氏:ええ、これまでは人間が見なければいけないというルールがあり、そのAI化には社内でも抵抗がありました。しかし実際に200万~300万枚という膨大な画像を短時間で分析できると分かり、懸念を払拭できました。

安倍:板橋さんも日本ディープラーニング協会主催の「DCON」というコンテストで“優勝”していますね。

板橋竜太・国立東京工業高等専門学校情報工学科4年(以下、板橋氏):全国の高専生がものづくりのスキルをディープラーニングに応用した作品と、その事業計画の両方を評価するコンテストで最優秀賞をいただきました。審査員はベンチャーキャピタルや投資家の方々で、参加者が提出した事業計画に対する評価金額の大きさで1位となりました。

板橋竜太(いたばし・りゅうた)氏
東京工業高等専門学校情報工学科4年
埼玉県生まれ。横浜市育ち。公立の小・中学校から高専に入学。中学校のときに初めてプログラミングに触れ、その楽しさを知ったことをきっかけに、せっかくなら楽しめることを仕事にしたいと考え、高専の情報工学科を選択。入学後すぐに学内の「プロコンゼミ」というプログラミングのコンテストへの参加を目指す課外活動に所属し、1年生と3年生のときに高専プロコンに出場。3年生で開発リーダーを担当した「てんどっく」は、高専プロコンで最優秀・文部科学大臣賞を獲得し、その後改良を加えて臨んだDCON2020にて最優秀賞を獲得した。

 私たちが開発した「:::doc」(てんどっく)というシステムはさまざまな書類をAIを使って点字に翻訳するものです。これまでは点字に翻訳する作業が自動化されておらず、役所やさまざまな団体が手作業で翻訳していたため、膨大なコストと時間がかかっていました。

 これを自動化するてんどっくには、企業評価額として5億円。審査員が「自分ならいくら投資をするか」という評価額も1億円という結果になりました。

安倍:板橋さんはまだ東京高専に在学中ですが、将来的には起業も考えているのですか。

板橋氏:事業化を目標に、今もシステム開発を続けています。

安倍:篠田さん。日立造船はAIやディープラーニング人材を育成する独自のプログラムを持っているそうですが、どんな仕組みですか。

篠田氏:「AIラボ技術講座」という育成プログラムを17年から開講しています。20年末時点で、入門講座を受講済みの社員が200人。今後は1万1000人いる社員の約1割、1000人が受講する計画です。レベルがもう1段上の実習講座も設けていて、部署ごとに1人は受講してもらう予定です。

 さらにレベルが高い実務講座というのもあります。これはAIのアルゴリズムを構築、改良できる人材向けで、現在は研究開発部門である技術研究所のメンバーが大半。この受講者を増やし、AIの知識でピラミッドの頂点に立つような人材をより多く育てる計画です。

安倍:草野さん。日本は出身大学の学部で、文系だ理系だと色分けされることが多い社会ですが、いわゆるアートとサイエンスの両立は、どうすれば実現できるのでしょう。

草野氏:まずは経営者がテクノロジーへの理解を深めることが大切でしょう。企業の経営者と話をしていると、人間ができることを機械やシステムで代替しても、メリットはあるのかと聞かれます。システム化にコストを掛けても、日本では人を解雇できない。AIを導入してもアウトプットの品質が同じくらいなら、現状のまま(人間が働く形)でいいじゃないかと、そういう議論になりがちです。

 日本は現場のオペレーションが優秀すぎるが故に、システム化のニーズが、短期的にはない、というパラドックスが生じています。しかし日本は今後人口が減っていく。そうした将来を見ずに現状維持を続けるようでは、積極的にシステム投資をする海外企業との差は開く一方です。

安倍:篠田さん、草野さんのご指摘を、いかがお聞きになりましたか。

篠田氏:私は中堅社員の立場ですから、上からの経営的な指示と、下からのもっと改善したいという気持ちがぶつかるというのがよく分かります。やはり既存の技術とAIなどをどう組み合わせて、何ができるのか。AIなどのシステム化に取り組むに当たっては、それを明確にすることが重要だと感じます。

安倍:では視聴者からの質問にお答えいただきます。小学生を対象にプログラミング教育が義務化されましたが、ハードウエア技術者の育成につながる制度も必要ではないでしょうかという質問です。篠田さん、いかがですか。

篠田氏:ものをつくる際には、それをどう活用するか、どうやってビジネスにつなげるかという意識が必要になります。私自身、学生のときにはそういう教育を受けてこなかったので、(社会人になった)当初は、そうした意識が乏しかった。

 ですからプログラミングに加えてハードウエアの教育もあると、つくったもので何ができるのかという意識を持ちやすくなるのではと思います。

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