<span class="fontBold">「日経ビジネスLIVE」とは:</span><br>「読むだけではなく、体感する日経ビジネス」をコンセプトに、記事だけではなくオンライン/オフラインのイベントなどが連動するプロジェクト
「日経ビジネスLIVE」とは:
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 ノーベル賞を受賞した学者など“世界の頭脳”の理論を、その要諦を熟知する専門家による解説で学ぶシリーズ。第1段は、2019年にノーベル経済学賞を受賞した米マサチューセッツ工科大学(MIT)のアビジット・バナジー教授の理論を、アジア開発銀行(ADB)チーフエコノミストの澤田康幸氏が解説する。バナジー教授へのインタビュー映像を使い、クイズ形式でバナジー教授が唱える「貧困などの社会課題解決のために経済学を生かす」視座を学ぶ。

 第2回はウェビナーの前半約20分をテキストとクイズ映像で配信する。バナジー教授はトランプ政権をどのように見ているのか。そして、移民は低賃金労働者の雇用を脅かすのか。

※本シリーズは、2020年10月29日にライブ配信したウェビナーを再編集したものです
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■本シリーズのコンテンツ
+バナジー教授(1)世界を貧困から救う経済学(ノーカット再配信)
※ウェビナー全編をノーカットでご覧いただけます
+バナジー教授(2)「移民が仕事を奪い賃金を引き下げる」は神話か
※ウェビナーのクイズ1、2と解説をテキストと映像でご覧いただけます
+バナジー教授(3)「ベーシックインカム」が効果を発揮する条件は
※ウェビナーのクイズ3、4と解説をテキストと映像でご覧いただけます
+バナジー教授(4)豊かさを測る最適な指標はGDPか幸福度か
※ウェビナーのクイズ5の解説、Q&Aセッションをテキストと映像でご覧いただけます

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第3回バナジー教授(3)「ベーシックインカム」が効果を発揮する条件とは

広野彩子(日経ビジネス副編集長、以下、広野):シリーズ「インタビューで読み解く世界の頭脳」の第1回は、2019年にノーベル経済学賞を受賞した、米マサチューセッツ工科大学(MIT)経済学部のアビジット・バナジー教授へのインタビューを基にしたセッションです。解説していただくのは、バナジー教授と親交がある、アジア開発銀行(ADB)の澤田康幸チーフエコノミストです。

 早速ですが、バナジー教授がノーベル経済学賞を受賞したのは、何が評価されたからなのでしょうか。

<span class="fontBold">アビジット・バナジー(Abhijit Banerjee)</span><br>米マサチューセッツ工科大学(MIT)経済学部教授 1961年生まれ。インドのコルカタ大学卒、ジャワハラール・ネルー大学修士課程修了。88年に米ハーバード大学で経済学の博士号(Ph.D.)を取得。2009年インフォシス賞受賞。11年、フォーリンポリシー誌が選ぶ世界の思想家100人に選ばれた。19年、マイケル・クレマー米ハーバード大学経済学部教授(当時)、配偶者でもあるエステル・デュフロ米MIT経済学部教授らとノーベル経済学賞を共同受賞。専門は開発経済学と経済理論。デュフロ教授との最新の共著として『絶望を希望に変える経済学』(日本経済新聞出版)を出版。(写真:Nastasia Verdeil)
アビジット・バナジー(Abhijit Banerjee)
米マサチューセッツ工科大学(MIT)経済学部教授 1961年生まれ。インドのコルカタ大学卒、ジャワハラール・ネルー大学修士課程修了。88年に米ハーバード大学で経済学の博士号(Ph.D.)を取得。2009年インフォシス賞受賞。11年、フォーリンポリシー誌が選ぶ世界の思想家100人に選ばれた。19年、マイケル・クレマー米ハーバード大学経済学部教授(当時)、配偶者でもあるエステル・デュフロ米MIT経済学部教授らとノーベル経済学賞を共同受賞。専門は開発経済学と経済理論。デュフロ教授との最新の共著として『絶望を希望に変える経済学』(日本経済新聞出版)を出版。(写真:Nastasia Verdeil)

澤田康幸・ADBチーフエコノミスト(以下、澤田氏):バナジー教授が受賞したのは、正式にはアルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞と呼ばれる、スウェーデンの中央銀行が出している賞です。バナジー先生、エスター・デュフロ先生(米MIT)、マイケル・クレマー先生(米ハーバード大学)の3人が、世界の貧困削減への実験的アプローチという功績でノーベル賞を受賞したということなんですね。

 受賞理由の実験的アプローチというのは少し説明が必要かもしれません。かいつまんで説明すると、例えば、ある開発政策の効果を測定したいという場合に、一番単純な方法はそのプロジェクトに参加した人と参加していない人を追跡して、その人たちの貧困の程度や教育水準、健康状態などを調べて、それぞれの平均の差を取ることです。

 奨学金という政策の効果の例を考えてみましょう。奨学金をもらったグループともらっていないグループでは、それぞれ教育年数が違うとか、そういう比較をするわけです。

<span class="fontBold">澤田康幸(さわだ・やすゆき)</span><br>アジア開発銀行チーフエコノミスト兼経済調査・地域協力局長 開成高校を経て1990年慶応義塾大学経済学部卒業、92年大阪大学大学院経済学研究科修士課程修了、94年東京大学大学院総合文化研究科国際関係論専攻修士課程修了、96年米スタンフォード大学大学院食糧研究所修士課程修了、99年同経済学部博士課程修了(Ph.D.)。同年東京⼤学総合⽂化研究科国際社会科学専攻助教授、2002年同⼤学院経済学研究科助教授。07年経済学研究科准教授、12年同教授。17年、アジア開発銀⾏チーフエコノミストに就任。専⾨分野は開発経済学、フィールド研究、特に発展途上国の教育開発、貧困問題、政策評価の経済分析。
澤田康幸(さわだ・やすゆき)
アジア開発銀行チーフエコノミスト兼経済調査・地域協力局長 開成高校を経て1990年慶応義塾大学経済学部卒業、92年大阪大学大学院経済学研究科修士課程修了、94年東京大学大学院総合文化研究科国際関係論専攻修士課程修了、96年米スタンフォード大学大学院食糧研究所修士課程修了、99年同経済学部博士課程修了(Ph.D.)。同年東京⼤学総合⽂化研究科国際社会科学専攻助教授、2002年同⼤学院経済学研究科助教授。07年経済学研究科准教授、12年同教授。17年、アジア開発銀⾏チーフエコノミストに就任。専⾨分野は開発経済学、フィールド研究、特に発展途上国の教育開発、貧困問題、政策評価の経済分析。

 しかし、このような方法では、政策の効果が正確には分からないということが、大きな課題になっていました。

 どういうことかというと、奨学金をもらっている人はそもそも優秀な学生で、もらっていない人は少し学力が劣る、あるいは努力が劣る学生の可能性がある。そのため、仮に奨学金がなかった場合でも、やはり奨学金をもらっているグループの方が、教育年数が長くなる可能性があるということなんです。

 少し踏み込んで言えば、奨学金の受給者と、非受給者の間では、データで観測できないような努力や能力といった様々な属性がそもそも異なっている。だから、実際に被益している人と被益していない人を単純に比較したのでは、政策の効果が正確には分からないということなんです。

 それが出発点で、正確に政策の効果を測るには一体どうしたらいいのかということで出てきた考え方が、ランダムに抽選で奨学金を割り付けるという方法です。そうすると、もらっている人ともらっていない人の属性は平均的に一緒なので、唯一の違いである奨学金の効果のみが、アウトカムの効果として発現するはずです。こうした手法によって政策の効果が正確に分かるということなんです。

 抽選でそういう政策をやるのは倫理的に問題があるのではないかという意見もあると思います。ただ、公平性の観点から言えば、くじ引きで決めるというのはそれほど悪くない面もあります。例えば、日本の国立小学校などでも、試験の後、最終的に入学できる人は抽選で選びます。

 とにかく、こういう形でランダムに政策を割り付けることで、その効果を厳密に測れるようにする。これを「因果効果」と言います。政策が実施されたことによって、結果が改善するという、一方向の矢印、つまり因果効果が分かるというわけです。

 この手法を「ランダム化比較試験」と言います。無作為に割り付けて比較する実験、という意味です。英語では「Randomized Control Trial」で、頭文字をとって「RCT」と呼び、この手法を開発政策の文脈に持ち込み、研究と成果の在り方に革新的な変化をもたらした、ということがまさにノーベル経済学賞を受賞した理由です。とにかく、RCTを経済学、特に開発経済学の分野に持ち込んだということです。そして、これは今では標準的な手法になっています。

 もう一言だけ例を申し上げると、医学における投薬・治験の効果があります。これを効果測定する場合にも、やはりRCTが標準的な方法になっています。逆に言えば、医学では既に標準となっていたRCTの手法を開発成果政策に持ち込んで15~20年弱の間に、開発経済学の世界を大きく塗り替えたということが評価されて、ノーベル賞を受賞しました。

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