監視・罰則の強化は有効か?

 今回の事件のように、八百長が発覚した際に厳しく処分する姿勢は八百長のデメリットを大きくするというものであり、当然インセンティブを抑える効果を持つ。また、監視を通じて八百長発見の精度を高められるのであれば、同等の効果を持つので有効だ。

 問題はどのようにして八百長を認定するかだ。今回のようにメールなどの証拠が出た場合は比較的容易だろうが、証拠隠滅を図られれば認定は困難だ。

 しかし、仮に状況証拠に自白が加わると認定が可能とするならば、いわゆる「リニエンシー制度」を採択する意義があると考えられる。

 リニエンシー制度とは、談合やカルテル行為を摘発・予防するために当事者の自白を促すもので、発覚時に支払う重い罰金や課徴金を、先んじて自白認定された者には免除ないしは軽減するというもの。この制度の下で談合行為をした場合、相手に先んじて自白することが望ましいことから、ほかの事由がない限り談合は発覚する。自分が処罰の対象となる可能性が排除できないため、談合のデメリットが大きくなる、というのがこの制度の趣旨である。

 このようないわゆる「チクリ」に基づく制度は、「日本的なムラ社会では機能しないのでは」という反対意見もある。しかし同様の批判を受けていた日本のリニエンシー制度(課徴金減免制度)の導入後、当事者からかなりの件数の自白があったことが報告されている。このことを考慮すると、大相撲でリニエンシー制度を導入することは検討の価値があるだろう。

 これまで、八百長のインセンティブをコントロールし、八百長を減らすための方法についていくつかのアイデアを提案してきた。力士の待遇や、対戦相手の決め方、各階層の構成の変更には様々な副作用があるだろうし、相撲の伝統にそぐわないものもあろう。しかし大相撲は、巨漢アスリートのぶつかり合い、一瞬の身のこなしや豪快な技を披露して見る者に興奮や感動を与えるプロスポーツであることも忘れてはいけない。

 真剣勝負を避け八百長が横行すれば、見る者の感動が薄れプロスポーツとしての価値は下がるだろうし、ひいては興行収入の減少を招いて守るべき伝統の継承にも悪影響が及ぶことになりかねない。伝統や歴史に根差した守るべき価値とプロスポーツとしての価値を両立できるような、新しい相撲のあり方が問われている。

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