勝星の貸し借りが成立しやすいのは、一定期間内に取引する相手力士との対戦回数が多い場合だ。貸し借り可能な機会の頻度が高ければ高いほど、信頼関係の維持によって得られる便益が高まるからである。

 対戦回数が少ない場合には、貸した勝星を返してもらう機会が相当遅れるか、あるいは相手の昇進や降格からその機会が2度と訪れないかもしれない。このような状況では、星を借りた力士は約束通りに星を返さない可能性が高い。裏切ることによって相手力士との以後の貸し借りの機会を失うが、そのような信頼関係の利益が小さいとなると、約束を破ったほうが得になるからだ。

 この論理は、「繰り返しゲーム」と呼ばれる継続的関係のゲーム理論分析から導かれる。当事者間の「協力」(これには談合や共謀という反社会的行為を含む)が維持可能なのは、協力を継続する際の将来機会の純価値が裏切りの利益を上回る時、と言える。

 幕内や幕下と比較して、十両では同じ力士同士の対戦が一定期間内に起こりやすい。これは十両の力士総数が比較的少ない割に(28人。幕内は42人、幕下は120人)場所当たりの対戦回数が多い(十両以上は各場所15戦、幕下以下は7戦)からだ。同部屋の力士同士の対戦がないことを考えると、十両にとどまる2人の力士は2場所に1回は相手と顔を合わせることになる。すなわち、同じ力士との対戦回数が多くなるので、十両では勝星の貸し借りが起きやすいと言える。

継続的関係を希薄化する

 継続的な関係に基づく勝星の貸し借りを防ぐにはどのような方法が効果的だろうか。

 先ほど述べた十両・幕下の格差是正はもちろん有効だが、そのほかにもいくつか手段が考えられる。最も単純な方法は十両の力士の定員増である。あるいは、十両力士の対戦数を減らすことも有効だ。定員を2倍に増やしたり、対戦数を半分に減らしたりすれば、継続的関係の機会が半分に希薄化されるため、関係の維持が困難になる。

 もう少し現実的な対策としては、まず十両下位と幕下上位の対戦、十両上位と幕内下位の対戦機会を現状よりも増やすことだ。また、番付の変更において、十両から幕内、十両から幕下への入れ替え人数を増やすのも手だ。ただし、このやり方には、継続的な関係の希薄化が可能な一方で、降格の危機に晒される力士が増えてしまうという副作用がある。十両からの降格の危機に対面する力士が増えると星の貸し借りのインセンティブが高まる。その半面、幕下降格時に再び昇格するチャンスが増え、降格のデメリットが軽減する効果もある。そのため実行には全体的な考慮が必要である。

 さらにこの議論は個々の力士が継続的関係を構築する場合についてであり、仮に継続的関係が相撲部屋を単位として行われているとすれば、希薄化の効果は減殺されてしまうため、注意が必要だ。

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