格差是正が八百長を減らす
八百長のメリットを潰せば、当然、八百長を行うインセンティブはなくなる。八百長のメリットは力士間の1勝の価値の差によるのだから、力士間の待遇格差を「適正化」して、各々の取組において勝利の価値の差が小さくなるようにすればよい。
最も効果的な方法として考えられるのは、十両から幕下にかけての待遇格差を「滑らか」にすることだ。分かりやすく極端に単純化すると、幕下10枚目の給料をゼロ、そこから十両筆頭まで番付順位が1つ上がるごとに給料を一定額増額するようにし、かつ昇進、降格をできる限り勝星の数に比例させる。
こうすれば、各取組における力士の1勝の価値の格差は十分に抑えられる。無論、昇進や降格は番付の近い力士との相対的成績によって決まるため、終盤には1勝の価値の格差が多少は変化する。その際には番付と勝星の近い力士を対戦させるなど、1勝の価値の近い力士同士が対戦するように配慮すればよい。
実際、大相撲では最終日の千秋楽で、7勝7敗の力士同士を対戦させるケースが多いが、この対応には一理ある。このように待遇の体系を滑らかにすることと終盤の取組を工夫することにより、八百長のインセンティブは相当軽減されると考えられる。
「八百長を防ぐ秘訣は、日々の成果の価値を力士の間でバランスよく調整することだ。それにはできる限り日々の成果に比例するような報酬体系を用いればよい」
このアイデアは、MIT(米マサチューセッツ工科大学)のベント・ホルムストローム教授、米スタンフォード大学のポール・ミルグロム教授による理論研究の応用である。
彼らは、日々努力を行うエージェント(代理人)へ適切なインセンティブを与える報酬体系について研究した。
「報酬の対象となる最終成果が日々の成果の集計である場合」において「経過によらず日々一定の努力インセンティブを与えるのが望ましい」ならば、成果に比例した報酬体系を用いるべきであると論じた。
大相撲に当てはめるならば、例えば勝ち越しや負け越しが確定した力士が、次の取組で怠慢にならないために、次の1勝の価値が下がらないようにしなくてはいけない。番付に関して非連続的に変化する待遇には八百長のほかにも問題点があると言えよう。
継続的関係に基づく勝星の貸し借り
次に金銭の授受ではなく継続的な関係に基づく勝星の貸し借りのインセンティブについて考えてみよう。
この方法の利点は、事前の打ち合わせがほとんど必要ないことだ。例えば、仕切りの最中に何か合図を送り合えば、合意が可能になる。当然、八百長の認定は非常に難しくなる。
ただし、貸し借りが成立するためには「借りた勝星は将来必ず返す」という信頼関係を維持することが必要である。すなわち、約束を裏切ることによって一時的に得られる利益と比較して信頼関係の喪失のコストが大きくなければならない。
Powered by リゾーム?