そんな中で実は近年、国際経済学の分野において非常に大きな進展があり、貿易自由化と生産性について興味深いことが解明されつつある。アンドリュー・バーナード米ダートマス大学教授らの研究グループは、米国の生産性の成長が、貿易自由化に伴う生産性の低い企業の縮小や撤退、並びに生産性の高い企業の参入や成長によってもたらされたことを明らかにした。

 カラクリは至って簡単だ。生産性の低い企業が市場から撤退して生産性の高い企業が入ってくれれば、国全体としては生産性が上がっているはずだ、ということである。

 「自由貿易によって米国だけが潤っているのでは」と疑う人もいるかもしれないが、南米チリにおける70年代から80年代にかけての貿易自由化の際には19%も生産性が上昇し、それを要素分解すると、6.6%が企業の生産性向上分で、12.7%が低生産性企業から高生産性企業へ資源を移動させたことによることが分かっている。撤退により資源が移動して有効に使われたことで、生産性が大きく向上したのだ。

撤退することは「敗北」ではない

 では、日本の生産性を引き上げるにはどうしたらよいだろうか。バーナード教授らの研究を踏まえると、例えばTPP(環太平洋経済連携協定)などを通じた貿易自由化によって今以上に国際競争にさらされることは、少なくとも国レベルでは生産性向上に寄与してくれそうだ。著しく生産性の低い企業は撤退に追い込まれるかもしれないが、安易に支援して延命させることはかえって日本の生産性を引き下げる結果になるばかりだ。撤退することそのものを「敗北」のように否定的に受け止めるべきではない。

 もしも日本がアップルという企業を排除していたならば、確かに国内の携帯電話業界は安泰だったかもしれない。だがそうであれば、スマートフォンが普及していない国は日本だけだったかもしれず、それではあまりにもカッコ悪いではないか。アップル参入によって、国内の企業もスマートフォン市場に本格参入するきっかけを得たし、それに派生して多くの新しい仕事が生まれたはずだ。同様に、新しい仕事はこれからも生まれるだろう。目先の保護や救済にこだわってこれから生まれる何万もの職をなくしてしまうような政策を進めることは、ないようにしてほしいものだ。

 国際競争に限らず、自由競争を促す政策が進めばやはり撤退企業が現れる。しかし、このときに多くの職が失われてしまうと考える必要はない。なぜなら、撤退と倒産は必ずしもイコールではないし、日本から職が減るかどうかも自明ではないからだ。トヨタや任天堂は今や日本を代表する企業だが、設立当初は現在とは異なる産業にいたことからも分かるように、時代の変化に合わせて事業の柱をシフトさせればよい。

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