「組織の経済学」は、組織における「妥協」や組織づくりなどを研究する分野だ。『意外と会社は合理的』(日本経済新聞出版)などの著書があるレイモンド・フィスマン米コロンビア大学経営大学院教授に話を聞いた。
(写真:PIXTA)
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(2014年4月発行の日経BPムック『2014~2015年版 新しい経済の教科書』掲載のインタビュー記事に加筆・再編集をしたものです。肩書などは、掲載当時のものです)

冒頭から早速ですが、経済学には「組織の経済学」という分野があると聞きましたが、これはビジネスパーソンの役に立つのですか。

レイモンド・フィスマン米コロンビア大学経営大学院教授(以下フィスマン):例えば、ビジネスにおける戦略的なやりとりを成功させるには、他人の立場に立ってみる能力が一番重要です。これは、フォード・モーターの創業者、ヘンリー・フォードが残した名言にもあります。「もし成功の秘密があるとすれば、それは他人の視点に立てる能力と、その人の視点と自分の視点の双方からものを眺めてみることである」。「他人の視点に立って見る」ことを、体系的な方法でやってみる重要性を、よく伝える名言だと思います。

 実は、ゲーム理論を使うと、そのことについて説得力をもって説明できます。ゲーム理論を理解することで、体系的に考えをまとめ、行動し、対応するというやり方が理解できるからです。

社内の「取引」を理論的に読み解く

ゲーム理論のほかに、ビジネスパーソンはどのような理論を応用できますか?

経済はすべてがトレードオフ

フィスマン:そうですね、まず経済学で考えると、基本的にすべてが「トレードオフ」である、ということについて考えることから始めましょう。

トレードオフとは、基本的には、何かをあきらめる代わりに何かを得る、ということですね。

<span class="fontBold">レイモンド・フィスマン<br> (Raymond Fisman)</span><br> 米コロンビア大学経営大学院教授、社会事業プログラム共同ディレクター。米ハーバード大学で経営学の博士号(Ph.D.)を取得後、世界銀行アフリカ部門でコンサルタントとして働く。1999年から米コロンビア大学に籍を置く。米ニューヨーク・タイムズ、アル・ジャジーラ、上海デイリーなど、さまざまな媒体に寄稿。
レイモンド・フィスマン
(Raymond Fisman)

米コロンビア大学経営大学院教授、社会事業プログラム共同ディレクター。米ハーバード大学で経営学の博士号(Ph.D.)を取得後、世界銀行アフリカ部門でコンサルタントとして働く。1999年から米コロンビア大学に籍を置く。米ニューヨーク・タイムズ、アル・ジャジーラ、上海デイリーなど、さまざまな媒体に寄稿。

フィスマン:経済学とは、ある意味「トレードオフ」について体系立てて考える方法論なのです。経済学を使って世間にあるトレードオフについてまとめ、分析していくことはとても役に立ちますよ。具体的には、何かをしようとした場合の費用と便益について、体系的に考えてみるといいでしょう。

 費用といいましたが、経済学でいう「費用」はお金のコストに限らず、概念的なコストも含みます。例えば機会費用(何かを選んだ場合に失われる、ほかの選択肢から得られたはずの最大の利益)、サンクコスト(埋没費用。事業などに投下した費用のうちもはや回収ができない費用や労力、時間)などが代表的な概念です。

組織の経済学では「取引費用」という考え方が代表的です。例えば、新しい取引先を開拓するより、付き合いのある相手の方が時間や労力が節約できる。新しい相手との間で生じる「費用」をいかに節約するかが、企業と市場の活動区分を決定づける、という考え方です。フィスマン教授は著書で、費用と効果のトレードオフによる「妥協」から組織にコストが生じること、具体的には、会議や管理職が無駄に増えることなどに言及していますね。

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