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MBAはいらない!と主張する経営学の教祖、ヘンリー・ミンツバーグ教授のインタビュー動画を使ったウェビナーを開催します。解説は、ミンツバーグ教授と長年の親交があるダニエル・ヘラー中央大学特任教授。
開催日:2020年11月26日(木)夜8時~
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(2015年1月5日の日経ビジネスオンラインに公開した記事を再編集したものです。肩書などは掲載当時のものです)

 “In the long run, we are all dead”(長期的には、我々はみな死んでいる)とはケインズの一節だが、確かにビジネスの世界も没落企業や衰退産業であふれ返っている。米アマゾンや米グーグルが新サービスを世に送り出し、新時代の勝者が生まれるたびに、不要となった旧世代はゴミ箱行きとなる。

 アナログ時代のトップ・フィルムメーカー、米コダック社はデジタル化の波のもくずと消え、オンライン配信に乗り遅れたレンタルビデオの米ブロックバスターは2010年に破産申請。大型スーパーで一世を風靡した米ウォルマート・ストアーズ(現ウォルマート)も、「何でも屋」と化したアマゾンの通販にどこまで対抗できるのか、将来を危ぶむ声がある。

 おごれる者は久しからず。敗者たちも、手をこまぬいていたわけではない。コダックは1975年時点で既にデジタルカメラを開発していたし、ブロックバスターも2006年にオンライン配信サービスを立ち上げている(後に同社を葬ることになる米ネットフリックスは、当時まだDVDの郵送レンタルを行う零細業者にすぎなかった)。ブロックバスターの当時のCEO(最高経営責任者)は「オンライン配信こそ我々の未来だ。この成長ビジネスに注力していく」と株主に告げていた。

 ところがどっこい気づいてみれば、彼らの姿は消えている。「成長戦略」や「イノベーションの重要性」を語る経営者は多いが、振り返ると本気で言っていたのか怪しいケースの方が多いのは不思議なことだ。

 旧世代の勝者が往々にして新しい技術に対応しきれないのはなぜか。いかにもビジネス書向きのテーマだし、運がよければ株式投資に役立つ知見が得られるかもしれない。また「一国ひいては世界の経済成長、したがって我々の生活水準も、長期的には技術革新次第」というのが経済成長理論の定説だから、そのイノベーションを担うのが誰か、どのようなインセンティブが作用しているのかは、ミクロ・マクロを問わず多くの経済学者の関心事だ(後述するが、私自身の研究内容でもある)。

 したがって同種の疑問を抱いた研究者は多く、有名どころでも過去100年間で3人挙げることができる。クリステンセン、アロー、そしてシュンペーターだ。

優良企業ならではの深刻なジレンマ

 1997年に著書『イノベーションのジレンマ』(翔泳社。英語のタイトルは「The Innovator's Dilemma(イノベーターのジレンマ)」)がベストセラーになった、米ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン氏は、ハードディスク駆動装置(HDD)業界に関する経営史研究を基に、旧世代の「勝ち組」企業が抱える組織内の問題を指摘した。ちなみにHDD産業は一般的にはマイナーだが、半導体やインターネットと並んでコンピューター業界を支える3本柱の1つだ。

 クリステンセンの研究対象は、旧世代とはいえ一度は勝者となった企業だから、例えば日々の業務の効率性や顧客への対応、それに研究開発体制などは概してソツがなく、ある意味「優良企業」が多かった。優秀なはずのそれらの組織に、それではどんな問題があったというのか。

 優良企業であるがゆえに生じる弱点の1つは、有力な顧客を多く抱えていることだ、とクリステンセンは言う。それの一体何がまずいのかというと、既存顧客の求める既存製品以外は、社内的に傍流になってしまうという点だ。

続きを読む 2/7 安直に「心理的性向」や「悪者」のせいにしないために

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