人々のインセンティブを入念に考慮に入れたうえで、経済や政治に関する集団的決定の仕組みをつくろうとする学問分野「メカニズムデザイン」。第3回はマッチング理論について。同理論は好みや希望を可能な限りかなえて、社会的に最適な組み合わせを実現するためのもの。最適な学校選択、仕事選び、ひいては結婚などにも応用できる可能性がある。「日本ではビジネスで活用する機運がまだ高まっていませんが、だからこそ取り入れるチャンスとも言えます」と、『メカニズムデザインで勝つ』(日本経済新聞出版刊)の著者である慶応義塾大学・坂井豊貴教授は語る。
学生寮の部屋を交換する

慶応義塾大学経済学部教授、デューデリ&ディール・チーフエコノミスト、Economics Design Inc.取締役
1975年生まれ。早稲田大学商学部卒、神戸大学大学院修士課程修了。米ロチェスター大学Ph.D.(経済学)。横浜市立大学、横浜国立大学、慶応義塾大学准教授を経て、2014年より現職。
今回は「学生寮の部屋の交換」を例に、マッチング理論の話をします。
学生寮を考えてみてください。寮の部屋は方角や広さ、館内での場所などそれぞれ仕様が違います。家賃が違うケースもあるでしょう。一方、どんな部屋を好むかは人によって異なります。例えば方角でいうと、多くの人は南向きの部屋を好むかもしれませんが、蔵書が多い人は北向きを好みます。南向きの部屋は本が日に焼けるからです。大学では、文学者や歴史家は北向きの研究室を好む人が多いです。
学生を「学生i」と名付け、学生iが現在住んでいる部屋を「部屋i」と呼ぶことにしましょう。学生たちは、必ずしも今の自分の部屋が一番好きなわけではありません。「寮には寝に帰るだけだからもっと狭くてよい」「本が焼けるのが嫌だから北向きの部屋がいい」など、それぞれが希望や不満を持っています。そこで、皆で集まって部屋を交換しようという状況を想像してみてください。
では、皆でどのように部屋を交換すればよいのでしょうか。
ただし、ここでは誰も、自分の意に沿わない交換には応じなくてよいことにします。要するに、今より嫌な部屋に替わることは拒否できるというわけです。
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