(2014年3月11日の日経ビジネスオンラインに掲載した連載「最前線!行動する行動経済学」の記事を再編集しました。肩書などは掲載当時のものです)
■お知らせ
ノーベル賞経済学者・リチャードセイラー教授の孫弟子である本稿筆者の田中知美氏が、セイラー教授のインタビュー動画を使って、すぐに役立つ行動経済学のエッセンスを解説するウェビナーを開催します。
開催日:2020年11月19日(木)夜8時~
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あなたは今朝起きてから何分以内に携帯電話をチェックしただろうか?お気に入りのアプリは1日何回開くだろうか?1日に何回携帯電話をチェックするだろうか?
米国の市場調査会社IDCが昨年3月に18歳から44歳の7446人を対象に調査した結果によると、79%の人が起きて15分以内に携帯電話をチェックする。そして1人当たり1日平均13.8回フェイスブックを見る。2013年5月29日付の米ABCニュースの記事では、1日平均150回携帯電話を使っていることが報告されている。私たちの多くが、自覚しているよりもはるかに頻繁に携帯電話に触り、携帯電話のアプリを起動しているようだ。
ヘルシンキ情報テクノロジー研究所のアンティ・オウラスビルタ研究員らは、携帯電話とコンピューターを使用するときの行動の違いを分析し、携帯電話は常時持ち歩いていてどこでもすぐに立ち上げることができるため、コンピューターよりも習慣性が高いことを報告している。ニュースなどの情報、ソーシャルメディアを通じた友人との交流、メールを今すぐ確認したいなどの欲求が即時に満たされることで満足感が得られ、使用頻度はさらに高まり、携帯電話使用の習慣化がますます強化されると説明している。
行動が習慣化すると脳の処理部位が変わる
デューク大学神経心理学部のヘンリー・イン助教授と米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のバーバラ・ノウルトン教授の論文によると、何度も繰り返された行動が習慣化されるとき、大脳基底核が関与することが分かっている。
また、理研脳科学総合研究センターの田中啓治チームリーダーらが「サイエンス」に発表した研究では、経験を重ねたプロ棋士が無意識に次の一手を選ぶとき、習慣的な行動を担うといわれる大脳基底核の尾状核を通る神経回路が使われていることが明らかになった。一方、アマチュアの棋士にはそのような脳の活動は観察されなかった。
しかしながら、将棋の経験がない人たちに4カ月の将棋の集中訓練をした結果、プロ棋士と同じような脳の活動が観察されるようになった。訓練中に何度も繰り返された行動が次第に無意識にするようになり、その行動が習慣化すると、行動を担う脳の部位まで変わるとは驚きだ。
では、何度も繰り返された行動が習慣化するにはどれくらいの期間がかかるのだろうか? ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのフィリッパ・ラリー研究員らは、繰り返された行動が習慣化するのにどれくらいの期間がかかるのかを実験して調べた。研究の結果、フルーツを食べるなど、努力レベルが低い行動が習慣化するのには数週間しかかからないが、ジムに行くなどといった努力レベルの高い行動が習慣化するのには長い期間を要することが分かった。
またユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの大学院生ガビー・ジュダー氏らによる別の研究では、繰り返しの頻度が高いほど習慣化までの期間が短くなることが明らかになった。どうやら、行動の習慣化には何らかの法則性がありそうである。
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