通信需要が急増する中、世界中で実施されている周波数オークション。一時期、日本でも周波数オークションの導入について活発に議論されたもののその後、下火になってしまった。周波数オークションをめぐる日本の状況について、マーケットデザインが専門の経済学者、坂井豊貴慶応義塾大学経済学部教授に寄稿していただいた。
■お知らせ 今年のノーベル経済学賞を受賞したポール・ミルグロム氏のオークション理論を、ミルグロム氏がインタビューで語る音声を聞きながら本稿筆者の坂井豊貴氏が解説するウェビナーを2020年11月6日(金)夜8時から開催します。詳しくはこちらをご覧ください。記事文末にもご案内があります。>>イベント詳細<
(2014年4月17日の日経ビジネスオンラインに掲載された記事を再編集したものです。肩書などは掲載当時のものです)
今では多くの人が携帯電話やインターネットを日常的に使っていますが、これはせいぜいここ20年くらいのことです。「日経ビジネスオンライン」のようなウェブ媒体が台頭したのもごく近年で、私はまだ「ウェブ上の雑誌に寄稿する」という行為に多少の違和感があります。パソコンやスマホで読む雑誌ってなんだ、と思うわけです。
しかし違和感うんぬんにかかわらず、電波通信技術は既に発達し、世の中に普及してしまいました。それに適切に対応しないと、情報を効果的に受け渡しできません。これは私もそうだし、社会制度だってそうです。
電波通信機器は、情報のやり取りを、特定の周波数帯を用いて行います。そして混線を避けるために、周波数帯の利用は、総務省が与える免許により認められるのが通常です。例えばソフトバンクの高速データ通信4G LTEサービスには2.1ギガヘルツ帯が用いられていますが(編集部注:掲載当時)、これは総務省がその周波数帯の免許をソフトバンクに与えたから可能なわけです。
電波通信技術の発達と普及は目覚ましく、それに伴い免許の経済価値は著しく高まっています。事業者にとって、どの帯域の免許をどの程度持つかは、サービスの展開に決定的に重要です。そしてこの免許ですが、日本を除くほぼすべての経済協力開発機構(OECD)加盟国ではオークションで割り当てが決まっています。日本はきわめて例外的で、総務省が比較聴聞による行政裁量で決めています。自民党政権も行政裁量を支持し続けてきました。科学技術の発達に社会制度の変革がなかなか追いつきません。
なぜオークションなのか
周波数オークションは1994年に米国で開始されたのをきっかけに一躍有名になりました。最初に販売されたのは米国の大部をカバーするナローバンド帯で、同年7月25日(月)から29日(金)まで5日間かけてオークションが実施されました。6つの事業者が10個の免許を獲得し、それにより政府が得た収益は約6億5千万ドルに上ります。その後も周波数オークションは様々な種類の免許について開かれ、2014年3月までで計86回、累計落札額は約800億ドルに上っています。おおまかに言って8兆円くらいでしょうか。
米国でも周波数オークション導入への道程は、短くありませんでした。最初にそれを提唱したのは米シカゴ大学の経済学者ロナルド・コースで、彼は1959年の論文「連邦通信委員会」でその必要性を説きました。なお、連邦通信委員会とは通信事業を管轄する米国政府の専門組織で、ここが周波数オークションを主催しています。日本にそうした通信委員会はありません。
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