(2012年9月11日の日経ビジネスオンラインに掲載した記事を再編集しました。肩書などは掲載当時のものです)

 今年4月のエコノミスト誌に、日本にとってショッキングな記事(“A game of leapfrog”)が掲載された。国際通貨基金(IMF)の分析によれば、日本の1人当たり国内総生産(GDP)額が2017年、香港、シンガポール、台湾、そして韓国すべてに追い抜かれるというのである。

 生産年齢人口も減少に向かう中、日本政府や経済界は、成長戦略に現在、頭を悩ませている。一国の経済成長を決める要因の特定は、経済学者にとっても難しい課題だ。特に長年議論になっているのは、国民の持つ基礎学力がその国の経済成長に影響を与えるのか否かについてである。

 国富の観点から学力向上を語ることに拒否反応を示す読者も多いであろう。しかしながら経済成長率の下落が雇用悪化に直結することは、マクロ経済学の「オークンの法則」として広く知られている。どのような価値基準においても、雇用機会のない国は不幸といえよう。

成長戦略の一環としての教育政策とは

 また日本においては1000兆円もの公的債務を返済しつつ、一方で社会保障制度を維持する必要があるが、GDPが減少する中にあっては、それはもはや不可能といえる。成長戦略の一環としての教育政策の立案は、社会の安定のためにも必要であろう。

 これまで教育水準は、国際比較が可能な形では数値化しにくいと考えられてきたため、ほとんどの研究者は、学力のレベルの代わりとなるデータとして「就学年数」を用いてきた。しかし長く勉強したからといって必ず学力が上がるわけではなく、この代用変数を用いて教育水準の経済成長への影響を分析することには限界があるといえる。

 この限界を打ち破ったのが米スタンフォード大学のエリック・ハニュシェク教授と独ミュンヘン大学のルドガー・ウースマン教授による研究である。彼らが目をつけたのは、過去約40年の間に行われた、高校生対象の国際的な学力調査(計12種類)であった。それには近年話題の国際的学習到達度調査(PISA)も含まれる。PISAは2000年から始まり3年ごとに行われる大規模調査で、2009年度は日本を含む世界65カ国・地域約47万人が参加した。

 ハニュシェク教授らはこれら調査における生徒の点数をもとに、各国の高校生の認知的能力(cognitive skill)、簡単に言えば基礎学力の水準を国際比較可能な形で指標化した。そして彼らは学力の高さが経済成長率に正の効果をもたらすことを発見し、今年経済成長論の専門誌であるJournal of Economic Growth 誌に論文”Do better schools lead to more growth? Cognitive skills, economic outcomes, and causation”を発表した。

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