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 この対談企画では、戦略コンサルタントとして活躍し『経営戦略全史』の著者として知られる三谷宏治氏、そして『孫子』や『論語』、渋沢栄一など中国古典や歴史上の人物の知恵を現代に活かす研究家の守屋淳氏が、縦横無尽に世界の歴史や企業経営に斬り込み、現代日本の課題解決につながるヒントを探り、語り合います。

 第9~13回では、企業ブランドの「グローバル化」の難しさと、その壁を打ち破った様々な事例を見てきました。今回からはIT(情報技術)がテーマです。まずは、古代中国やモンゴル帝国の歴史的事例を踏まえて、ITと戦争の関係について語り合います。

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ORIENT:原義は「口ーマから東の方向」。時代によりそれはメソポタミアやエジプト、 トルコなど中近東、東ヨーロッバ、東南アジアのことをさした。転じて「方向付ける」 「重視する」 「新しい状況に合わせる」の意味に。

プロローグ:ヘディ・ラマーの秘密通信特許

 私はユダヤ系の両親の元で生まれ育った。父は銀行家、母はピアニスト。父と街を散歩するとき、街に点り始めた街灯や走り回るバスの仕組みを、父に尋ねるのが大好きだった。でも女優に憧れてベルリンで学び、ウィーンで助手として映画づくりに関わるようになった。18歳のとき『春の調べ』で主役をもらった。

 19歳で結婚した相手は14歳年上の裕福な武器商人。幽閉同然の生活を送らされたけれど、よくビジネスの場に同席した。相手は科学者や軍事技術の専門家。そこでの会話はとても刺激的で、いろいろなことを学んだわ。武器のこと、そして無線技術のことも。

 夫と別れて米国に渡り、23歳でハリウッドデビュー。それから20年間は映画スターであったわね。でも戦争が始まってある日、ナチスの潜水艦が子どもたちの疎開船を爆撃したと聞いた。でも通信妨害で対潜水艦の魚雷が当たらなくなっているとも。ユダヤ人でありアメリカ人でもある私は、何とかしたいと思った。

 「妨害されにくい無線システム」のアイデアはピアノの連弾の中で生まれたわ。こうやって転調しながら弾いていけば……。発明は楽しいわ。だって美は永遠ではないけれど、技術は永遠だから。

Hedy Lamarr(1914~2000):ウィーン出身の女優・発明家。30本以上の映画に出演し、6回の結婚・離婚をしたハリウッドスター。魚雷の無線誘導技術に関心を持ち、妨害電波に強い「周波数ホッピング」方式を考案し、1942年に友人と共同で特許をとった。ラマーらはこの発明の功績により「全米発明家殿堂」入りしており、誕生日である11月9日は母国オーストリアやドイツなどで「発明家の日」とされている。(写真:Eliot Elisofon / Getty Images)