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それでもグローバル化を成功させた消費財企業:ネスレ、LVMH

(み):世界は凸凹・ギザギザだと言ったのは、『クリエイティブ・クラスの世紀』を書いたリチャード・フロリダと、パンカジ・ゲマワットです。ゲマワットは最年少でハーバード・ビジネススクールの正教授になった天才ですが、『Why the world is not flat?(なぜ世界はフラットではないのか)』という論文や『Redefining Global Strategy(邦訳:コークの味は国ごとに違うべきか)』という本を書いて、いかに世界には多くの地域差があるのか(CAGE理論(*9))、そしてそれへの対応策(AAA戦略(*10))を論じています。

 文化的にも制度的にも世界の地域差はまだまだ激しいのです。ただ、その地域差が激しい消費財、しかも最終的な商品の中でも、グローバル企業はどんどん生まれていて、食品でも世界は10大グループに収まりつつあります。ネスレが最大の企業で売上10兆円。アサヒやキリンは2兆円、だから5倍の差。時価総額は何と15倍の差(*11)があります。なぜそうなるかというと、時価総額は結局その企業の利益――キャッシュフローが将来どれぐらい上がり続けるとみんなが見ているのかで決まります。ゆえにネスレの利益率や成長率は、日本企業の3倍以上と見られているということ。そんな巨大プレイヤーが、より多くのブランドを飲み込み、成長していきます。

 もっと面白いのは高級ブランドの集約化です。服飾ブランド、バッグ、時計などの高級ブランドの多くを、今はLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)、リシュモン、ケリングの3大グループが支配しています。独立系で残っている有名なものは、シャネル、エルメス、ティファニー(*12)、アルマーニくらい。最大のLVMHは、ルイ・ヴィトン、モエ・エ・シャンドン、ヘネシーの他に、クリスチャン・ディオール、ロエベ、セリーヌ、ケンゾー、ブルガリ、フェンディ、ジバンシーなどを傘下に収めています。

 さて、ここで問題です。なぜ高級ブランドはグループ化するのでしょうか。なぜみんな大手の傘下に入ろうとするのでしょうか。

スイス、レマン湖畔のネスレ本社(Bloomberg / Getty Images)

(守):お互いにお互いの資産を融通し合えるから。特に販売のネットワークやノウハウ、あとは、もしかして原材料が安く買えるからとか?

(み):ちょっとかすってるかも。

(守):う~ん、では高級ブランドなので、顧客情報が貴重ですよね。それをブランド間でシェアできるから!

(み):それは絶対やりません(笑)

(守):がっくし、浅はかでした・・・・・・。
 

(み):基本的には製品を作る面においても、販売する面においても、直接的にブランド間の機能やノウハウ、情報を共有化することはありません。それは、高級ブランドにおいて最も大切なオリジナリティ、独自性を失うことにつながるからです。特に顧客情報の共有は絶対にしません。顧客はLVMHのファンな訳ではなく、その特定のブランドが好きなだけなのです。「ルイ・ヴィトンが好き」な人に「セリーヌはどうですか?」とDMを送ってもマイナスになるだけです。

 だから、一見、共有してるものは何もないように見えます。でも、どんどんグループ化しているのは、世界が凸凹だからなのです。フラットだったら、各ブランドは独自に世界展開していけばいい。差がないのだから簡単です。でも凸凹だから、単独で海外市場をひとつひとつ攻略していくのは手間も時間もお金もかかります。でもLVMHグループの傘下であれば、世界中の国で既にビジネスをやっています。ツテもノウハウも資金力もあるのだから、展開はとても容易になるでしょう。

 その背景には、この20年間の「世界の膨張」があります。2002年以降、世界の総GDPは2倍以上になりました。その成長は主に新興国と呼ばれる地域からもたらされました。中国を筆頭としたBRICSはもちろん、東欧諸国や東南アジア諸国。高級ブランドの需要も、世界中のいろいろな国で一気に広がりました。

 だから、大手の傘下に入ることで、個別の高級ブランドが自分で頑張って展開していくより、ずっと速いスピードで、より多くの売上や利益を上げることができる。先ほどの時価総額でいうと、そのブランドに何倍もの価値が出るわけです。だから買収が成立します。

(守):なるほど。デジタルにならないアナログ的障害を乗り越えていく力そのものが、売りになるんですね。

*9:差異を分析する4つの切り口がCAGE。Cultural(文化的)、Administrative /political(制度的・政治的)、Geographical(地理的)、Economic(経済的)の頭文字
*10:Adaptation(適応)とAggregation(集約)、国ごとの差異を活用するArbitrage(裁定)の頭文字
*11:アサヒやキリンは時価総額が約2兆円。ネスレは時価総額が約30兆円
*12:LVMHは2019年11月、ティファニーとその買収(総額1.7兆円)について合意に至ったが、新型コロナウイルスの影響を理由に、2020年9月その撤回を表明した。互いに提訴する泥仕合となったが、10月末に契約が結ばれた